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File.6-6 ページ32

台本がある俳優より滑らかで澱みなく説明される仕掛けに、驚愕すべきところなのだろうが、幸か不幸か長年見続けて聞かされ続けてきた彼の明晰過ぎる頭脳に今更驚愕など無い。



「御明察恐れ入ります」



ぱちぱちと、手袋越しの拍手を送りながら柔く微笑む。



今までに出会った自称探偵達より明らかに鮮やかな推理過程と、恐らく誰よりも早く真実を掴んだ頭脳は、見破られたと言う悔しさより其の頭脳が自分の為に使われたと言う歓喜の方が勝る。



「貴方をシャーロック・ホームズの様だと評する理由の一端を拝見出来て光栄です」



焦る事もなく微笑みすら絶やさない泥棒、という真実を突き付けられて慌てふためいたり諦めたりと感情を揺らす殺人犯とは異なった毛色に、流石の彼も僅かに眉を寄せる。然し私も此処で踵を返して逃げ帰る訳にもいかない。



何より重要な仕事は、寧ろ此処からなのだから。



「そんなホームズさんにひとつ頼みがあります」



「頼み...?」



当然の反応だろう困惑を見せる彼へ、臆する事無く数歩歩み寄り見上げる。手を伸ばせば確実に触れられるが、逃亡する立場にある泥棒が近寄ってきたと言う危機感からか、彼の方が片脚を引いて重心を後ろへ移動させていく。



「数十年前、この真珠はとある場所から盗まれ...すり替えられた偽物は人々に悟られない儘保管され続けています」



手にしていた真珠を指で摘んで、突然の告白に少なからず驚愕の色を見せる名探偵の目の前に差し出す。「こんな泥棒の言葉等信用出来ないかも知れませんが」と後付けに保険を添えても、彼の当惑と驚愕の其は変わらない。



「ホームズさんの類稀なる頭脳を以て、如何か...彼女を在るべき持ち主の手へ返却して頂けませんか?」



「.....証拠はあんのか?それが本物で、偽物が別にあるって」



私からすれば慣れた彼だが、彼からすれば初めましてから数分程度。しかも一般人ですら無く犯罪者と来た。それなのに頭から否定せず一応とは言え話を聞いてくれるとは、優しいのか将亦あくまで現実主義過ぎるだけか。



「私の眼と、正当なる主人が鈴木財閥会長の鈴木史郎氏である事」



『至福の金星』と呼ばれる世界最大の金真珠。同じ大きさで世界最大と言われる金色の真珠はもう一粒あり、それは代々鈴木財閥で同サイズの黒真珠と共に家宝として受け継がれている。



悲しい運命を辿る彼女。



本名を『黄昏の星-トワイライト・スター-』と言う世界最大の真珠。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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