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警部が居ないからといって指揮系統が乱れる事無く、館内に留まらず博物館周辺を走り回る警察官。
そんな彼等を見下ろす一人の警察官、の制服を着た人影。
博物館とは言え西洋の城をモチーフに造られた此処の、メインホールに当たる城塔の最上階。本物の城であれば主砲や見張りがいるであろう開けた場所は屋上としての機能のみを果たしており、外観重視の観点から階段は無く、ひっそりと取り付けられたアーチグリップのみでの昇降を可能としている。
そんな場所に、派手な犯罪者を探しに来る者は居ない。
3月に入ったばかりで未だ寒い夜空に浮かぶ月は、金星から呪いを見出す事無く静かに微笑むばかり。真珠を月明かりに翳した儘暫く凝視めても、何も変わらない。
さて、この厄介者を如何するか。と思考を巡らせていたとき、
「アゾベンゼン誘導体」
突然背後から聞こえてきた声。
それに驚くより先に、過ぎった思考通りに彼に頼むかと結論付けたのは、如何せ此処に来るだろうと言う確信。それに加えて、彼なら屹度正しい路に辿り着くと言う信頼。
「特定の有機物質に紫外線を照射した時、光異性化反応により融解する」
ゆっくりと振り返った先、夜という時間にも関わらず帝丹高校の制服に身を包んだ名探偵が、特別感情を表に出す訳でも無く立っていた。
「飾られてた真珠は前もって偽物と擦り替えてたんだろ?」
「成程、高名な探偵様なだけあって博識でいらっしゃいますね」
肩口を掴んで引き下ろし、正義の青を脱ぎ捨てる。現れた白と青は闇夜にすら映える鮮やかな犯罪の色。
「お初に御目に掛かります。如何ぞ、以降お見知り置きを」
展示室の際よりも深くカーテシーに頭を下げる。彼には当然の敬意と、次もあると言う捕まる気の無い意志を込めて挨拶を渡すも、探偵である彼が犯罪者に正面から挨拶を返す訳も無く。
「あんたは全員が羽根に気を取られてる間に紫外線ライトでケース内の真珠を溶かし、あたかも今盗み出した様に見せ掛けたんだ」
自身の推理を疑う事の無い口調で語る彼は「液状化した有機物質はケースのクッションが吸っちまうからな」と付け足しながら腕を組む。
「天井には予め大量の羽根を接着剤で軽く付けておいたんだろ?空調が強まれば剥がれる位にな。その証拠に、剥がれなかった羽根が天井に残ってたぜ」
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時