File.4-4 ページ4
しん、と静まり返った教室内。
巻き込まれない様にスマートフォンから目を離さずに画面の警察資料を読み込む中、こういう場合快斗ならどうするだろうと考えてみる。
黒羽盗一氏直伝の紳士感の持ち主である事は間違い無いのだが、生憎黒羽快斗は些か少年らしさ健在で、少しばかりの茶目っ気と底無しの明るさを持ち合わせ、頭脳明晰の癖に馬鹿という、何が何だか分からない人間なのだ。
チョコレートをくれた女子生徒を悲しませる事はしないだろう事から、この山盛りの洋菓子を破棄する事は無い筈。だからと言って、この場で小泉紅子のチョコレートが欲しいからと「何でだよ!」なんて文句を言うとも思えない。
「そうだ!紅子様に失礼だぞ!」
群がる男子生徒がおかしいのか、
「じゃあ、いらねぇよ」
小泉紅子に背を向ける快斗がおかしいのか。
手を叩いてきた彼女を責めるでも無く、直ぐに一箱のチョコレートを諦めた彼は山積みチョコレートの前に立って机に手を着いてくる。
「なあ、デケー袋持ってねえ?」
「持ってる訳無いじゃん」
スマートフォンから目を離す事無く「頑張って抱えて帰れば?」と返す途中、突然手元から消える端末。攫って行った相手が相手なだけに特段文句を言うでも無く、何も無い手から快斗へと視線を上げる。さらさらと画面を捲りながら「ふぅん...」と中身を記憶していくのは別に構わないのだが、私が見ていたのは自分の方。今夜彼が行く方の警備資料では無い。
「次からオレのもよろしくな」
明る過ぎる笑顔と共に返却されるスマートフォンの画面を落としながら、返答もなく溜息を零す。端末をポケットに仕舞うと同時に教室内へ入ってくる教諭が「席に着けー」と声を上げ、宗教宛らに集る男子生徒が散っていき、少しばかりの騒めきだけが漂っていく。
「ちょっと快斗、これどうするの?」
「あー、入りきっかなぁ」
他の生徒に違わず自分の席に座った快斗。そんな彼へ、自分の机を埋め尽くす洋菓子を抱えて振り返る。バレンタインデーに貰ったチョコレートを人の座席に盛るだけ盛って去って行く男がどういう神経をしているかは分からないが、この洋菓子を私が代わりに持ち帰ってあげる意味は一層理解出来ない。
背後の机に一方的にチョコレートを置き去りにして、前へ向き直った先。
尋常ではない勢いと殺気をもって此方を睨む女王様と目が合った。
気がしたが、恐らく気の所為では無い。
.
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時