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File.6-4 ページ30

静かに室内を一周回り、出入口付近で顎に右手を当てて考え込み始める高校生。



そんな彼を遠目に眺めていれば、一応の考えが纏まったらしく今度は此方に近付いてくる。此方、と言っても彼の視線は私では無く私達四人の警官が傍に居る『至福の金星』の展示ケース。



「あの、近くで見ても構いませんか?」



態々断りを入れてくる辺り常識と配慮が行き届いた、良識的な高校生だ。優作さんと有希子さんの教育の賜物だろう。相変わらず整った顔が此方を向いて訊ねてくるので「どうぞ」と返しておく。赤い編み込みロープ式のポールスタンド越しに真珠を眺める彼は、特段何かを言う訳でも無く暫く見詰めた後その場を去って行くが、何かを掴んだのだろうか。



変わらぬ思考スタイルを展示室の出入口で晒す彼が無言を貫く事数分。



「予告時間です...」



訪れたその時間を、スーツ姿の警官が緊張感を持って告げる。



その声から数秒。



ひらりと視界を掠めた純白。



室内だと言うのにも関わらず、天から降り注ぐように数多の羽根が天井から舞い落ち始める。柔らかい羽根は不規則に踊りながら、祝福を齎す天使の様に。



誰もが薄暗く高い天井へ目を向け、声にならない戸惑いと焦燥を見せる中、彼等の目を盗んで展示ケースへと飛び乗り警察官の制服を脱ぎ捨てる。



「こんばんは、皆々様」



白のフリルワンピースは幾重にも裾を重ね、上から羽織った青いトレンチワンピースのレースが柔らかく揺れ、腰の黒いリボンが尾を引き、アンティーク調の懐中時計のチェーンが微かに音を鳴らす。プラチナブロンドに乗せられた青を基調とした小振りのシルクハットは、水色のリボンにピンクの薔薇を二輪添えて顔へ影を落とす。



カーテシーで挨拶を向ける中、唐突に振って沸いた怪盗に驚愕の表情を晒す警官は、次いでその頚に下げられた金星に目を奪われる。泥棒が立つ展示ケースの中には、既に『至福の金星』の輝きは無い。



「それではお約束通り、頂戴して行きますので」



大袈裟な程の微笑みを添えて「御機嫌よう」と告げると同時に、四つ玉然とピンポン玉程の赤いボールを両手に四つずつ取り出す。指の間に挟まれた其を勢い良く床へ叩き付ければ、一斉に弾けて煙幕を散らし始める。



青玉と違って煙幕だけを張る赤玉が破裂する中、再び警官の制服へと着替え直して皆と同じ様に噎せておく。



八つは焚き過ぎたような気がするが、少ないよりは良い。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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