File.6-2 ページ28
何故か他人事に考えている其など彼は知る由もなく。
「んで？次の得物は決まったのかよ」
改めて資料を覗き込んでくる。
「取り敢えずこれ、かなぁ...」
取り敢えず、というのは色々な含みを持つが、それは扨置き一枚の書類を快斗に見易いように背後へと紙面を見せる。写真には一粒のゴールデンパールのネックレスが映されており、展覧会の目玉である事が見て分かる。
『至福の金星-ブライト･ヴィーナス-』と呼ばれる世界最大の金色の真珠。個人所有の真珠だが、今回宝石展に際して博物館へ貸出しされるとのこと。所有者を調べてみたが、恐らく善良な一国民のようで、海外を流れていた真珠を大枚をはたいて購入したらしい。そんな彼には申し訳無いが、今回の狙いはこの真珠にさせてもらうとして、問題がひとつ。
いや、問題だと感じているのは私では無く警察なのだけど。
「快斗って月曜日から連続だっけ？」
「今のとこ4日、ってとこだな」
そう、何を思ってか月曜日から木曜日まで毎晩キッドが暴れ回るという希少性も何も無い活動頻度を晒すのだと言う。私は彼が何をしようが構わないが、そうなると中森警部が過労で倒れてしまうかも知れない。それに加えて私がキッドと同じ日に当てるとなると、まあ、私の方に警部は来ないだろう。
「なら、水曜日にしようかな」
キッドに奔走する警察が疲弊する三日目。人員をどれだけ此方に割けるか不明だが、全員が片方に寄る事も無く散る事だろう。それに日付も丁度3月1日で、展覧会開催初日。それまでに暗号化した予告状を用意して手口を考えて、となると中々短い時間だが仕方無い。
「それまでにコスプレ探偵の気引いといてね」
ひとつに纏めた灰髪によって晒された項に当てられる湯湯婆の温かさに誘われて、漂い始めた眠気に乗って欠伸が零れる。ふありと漏れた其を手で受け止めながら「仰せの儘に」と気障ったらしく告げられる声を聞いていれば、不意に突然頚に吻が触れて肩が跳ねた。
「...ちょっと、」
振り返った先の楽しそうな笑顔に抗議の視線を向けるも、悪怯れすらしない彼に怒る気もなくなる。矢鱈顔が良いとは実に罪深く、不機嫌すら鎮火させてしまうのだから手に負えない。
「今夜グラタンが良い」
深々吐いた溜息に夕食の要望を乗せて資料へと目を戻す。
相変わらずの明るさで「おっけー」と返しつつ再び項へと触れた体温には、最早機嫌を損ねる気すら起きないのだから厄介だ。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
