File.6 Sherlock Holmes ページ27
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宝石や美術品、芸術品というものは基本的に世界にひとつ。
同じ種類の宝石でも色合いやファイアの質や角度が異なる。絵画や装飾品に至っては当然で説明するまでも無い。鑑定士や宝石商といった職業は勿論、泥棒も審美眼が必要になる訳だが、その眼も優劣があるのも事実。
つまり、精巧な贋作は乙丙丁程度の審美眼では見分けが付かない。
「いったぁ...ちょっと、そこゆっくり...」
バサバサっとソファの座面に落ちた資料を拾い上げながら、背後の快斗に要求すれば「りょうかーい」という返答と共に右肩を撫でる様な手付きに変わる。
白馬探が転校してきてから数日後の休日。
入り浸るどころか時折宿泊する様になったのは、地下にベッドも二つあるから構わないのだが、帰る日と帰らない日は完全な不規則で買い出しや買い溜めも予測が付かずに困っている。来ないと思って学校から直接帰れば、快斗が泊まりにくる。そうなれば必ず彼が食材やらお菓子やアイスを買って来てくれているのだが、代金を聞いても答えて貰えない上に大まかな金額を渡しても受け取ってくれない。
たまには此方で色々買い込まなければ、申し訳無い。
「つうか、何でこんな凝るんだよ」
「えー...女の子だから?」
今日も今日とて寝起きから滞在している快斗が作った朝食を頂いて、来週から開催される宝石展の資料を見ていた。ソファに横向きに座り、座面に資料の束を幾つか並べつつ左側の背凭れに身体を預けていれば、背後に座った快斗が右肩に顎を乗せるように覗き込んできた。
そこから、彼の興味は資料なんかより私の凝り固まった肩へ移ったらしい。
いつの間に買っていたんだか、最近前もってベッドを温めてくれている充電式の湯たんぽを持ち出して、首周りや肩を温めたり肩揉みを挟んだりと有名マッサージ店並みのケアを提供してくる。
近頃、彼が有能過ぎる執事に見えてきたが、本人には言えない。
肩から頚へと移った手が素肌に触れ、普段奇術と戯れる靱やかな指先が滑ってくる。ふわっと不思議な感覚が過ぎったが当の彼は「なるほどなー」と呑気で間延びした声を返してくるだけ。
力加減を訊ねつつ首周りを解してくる指先が擽ったい訳では無く、痛い訳でも無い。そこまで考えて、ふと思い浮かんだ其がどの可能性より納得がいって。
彼の貴重で綺麗な手を独り占め出来ている事が嬉しいのか、なんて。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時