File.5-13 ページ26
「快斗、女の子には優しくね」
一度天井を確認して、彼の手で広げられた新聞紙に触れる。
瞬間、見慣れた日常の中の情報が詰まった紙束が燃え上がり、三秒と待たず燃え尽きた。唐突に訪れた異常事態に、しん、と静まり返る教室内。その中散る燃え滓は黒い紙片などでは無く、黄色い薔薇の花弁。
「ほら、青子ちゃんに謝らないと」
大量の花弁が散る中、持っていた新聞が燃えた其に驚愕と目を見開いた快斗に笑顔を添えて言えば、ぎこち無く青子ちゃんへ顔を向け「スミマセンデシタ...」と片言の謝罪を向けてくれる。言われた青子ちゃんも「ダ、ダイジョウブ...」と片言だが、まあ良い。
「はい、皆さーん!転校生で.....何か焦げ臭くない?」
予鈴の後に教室へと入ってきた担任が漂う燃焼臭に一瞬脚を止めるが、目が合った序に笑顔を貼り付けて首を傾げておく。快斗の席がスプリンクラーの真下では無かったお陰で何事も無く済んでいるのだ。掘り返す心算は無い。
「...まあ良いわ。さあ、入って来て」
焦げ臭さに関しての追求を諦めたらしい教師が、転校生とやらを室内へ呼び込む。不思議な時期に転入生が来たものだと思いながら眺めた扉から入って来たのは、紛うことなき転入生。
「2月24日、9時00分32.41秒にロンドンブリッジハイスクールから転校して来た...白馬探です」
妙な言い回しに独特なタイムマネジメントを持った高校生。
そんな変人然とした彼に対して「きゃー!かっこいい!」と盛り上がる教室内の女の子達に、日本の高校生と価値観や趣味が合わないかもなと心中考える私と、「何だ男かよ」と落胆する男士達。その中で快斗もまた違う事を考えているのだろう。
「よろしく」
優しく柔らかい笑みを浮かべた高校生探偵の、引きの強さと運の良さは目を見張るものがある。
望んですらいない波乱の予感に出そうな溜息を飲み込めば、微かな焦げ臭さが掠めていった。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時