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File.5-11 ページ24

𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ




何を盗んでも、どんな奇術を披露しても。



「おはよう夏月ちゃん!」



平日の日中なんて毎日変わり映えなんてしない。



相変わらず元気な同級生の青子ちゃんへ「おはよう」と笑顔を返しながら、彼女の斜め前の席に着く。後ろの席に鞄を置いた快斗は座席に着くなり新聞紙を広げて一面を飾る記事から順に目を通し始める。未だにインターネットに頼らず朝刊を愛用する辺り、何処かの探偵と変わらない。



「ねえ、夏月ちゃんと快斗って付き合ってるの?」



「...あー.....、」



隣の幼馴染ではなく、私へ訊ねてくる。その真意は定かでは無いが、当の幼馴染は一瞬挙動を止めた後、恰も聞こえていないかの様に新聞の文字を追っている辺り、返答の如何は任せて呉れるという事だろう。



それにしても、だ。



残念ながら、黒羽快斗に好意を寄せているらしいのは黒咲夏月では無く花染Aであって、それである以上今の質問の答えは否である。然し否定したら否定したで毎朝一緒に登校している意味は分からない上に、突然気軽に話し掛け始めた快斗も説明に困る。



と、此処間で考えて感じた違和感。



「私は好きなんだけどね、彼が思ってる好きとは違うんだって」



そもそも付き合ってないのだと思い出して。



それと同時に、数多の男女の頭を悩ませ続けているらしい、付き合う付き合わない問題って何なんだ、と長年考えてきた疑問を「うん...?」と難解そうに頭を捻らせているクラスメイトに向けてみる。



「ねえ、誰かと付き合うって...つまりどういう事?」



生憎、今までに見てきた男女は既に結婚していたり、一般常識からは明らかに逸脱していたり、と複雑難解すぎて「好きな人と恋人になってお付き合いする」という順序が分からない。好き、の先に結婚やら子どもがいるのは分かっているが、その間を知らない。いや、知らないというより「価値観の擦り合わせの期間」という認識がある筈なのに、漠然としていて良く分からない。



先程まで訊ねる側だったのに唐突に質問し返されて「えっと...」と戸惑う彼女は、然し放り出す事無く真剣に考えてくれているらしい。



「両想いの人と同じ時間を過ごして、前より好きになったり...新しい一面を見つけて嬉しくなったり...」



安全な国だと言われている日本の高校生は、



「もっと一緒にいたい、って...心があたたかくなるんだと思うよ」



殺伐とした私の人生に新しい考え方を呉れる。






.

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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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