File.5-10 ページ23
しん、と静まり返った展示室。
煩いどころの騒ぎでは無い廊下。
それを繋ぐ筈の扉は軋みながら、蝶番が上げる悲鳴すら掻き消される様な警官達の体当りを受けて耐えているが、数十人の男による暴力に耐え続けられる訳も無いのは目に見えている。
扉が今迄以上に叩かれた瞬間、結束帯が千切れ蝶番が飛び、扉が押し倒されて室内へと警官が流れ込んで来た。
「キッド!アリス!」
雪崩込みながら叫ぶ中森警部へ手を振る私と、ワイヤー銃を背後の壁へと打ち出すキッド。二階部分に当たる回廊付近を越えた壁に食い込んだワイヤーは、警官達が一斉に展示室に入り込むより早く、美術館らしく綺麗に張られたステンドグラス迄犯罪者達を引っ張り上げる。二人分の重さを引く銃を握ったキッドの右腕も心配だが、それより抱き着いているだけの自分の方が心配だ。
巻き上げられる中、ステンドグラスへとウサギの縫いぐるみを投げ付ければ、縫いぐるみとは思えない威力を持って爆発して色鮮やかなガラスを吹き飛ばした。
凄まじい破壊音を響かせたステンドグラスが外気を取り込み始める中、耐荷重300kgに設定している重量センサーが作動して展示室の壁を覆う様に防犯シャッターが勢い良く落ちてくる。犯罪者を逃がす心算も無ければ、何なら押し潰してしまおうという気概を感じるシャッターが、爆発に巻き込まれたステンドグラスの亡骸を隠すより早く、滑り込む様に外に飛び出す。
背後で「待て!」なんて中森警部の声が聞こえるが、律儀に待つ犯罪者は居ない。
抱き着いていた体温を手離し、ふわりと開いた純白の翼から抜け落ちた羽根が美術館内へと舞い込むが、其が床へ落ちて行く様子を見送るより早く防犯シャッターが無慈悲に降ろされた。
「本当にラパン好きなの気持ち悪い...」
ばさりと羽搏く中優雅に滑空するキッドに寄る様に、くるりと中空を泳いで近付く。
「この絵どうするの?」
「あー...どうすっかな、飾んのも怪しいし」
背負った儘のポスターケースが邪魔だが、投げ捨てる訳にもいかない。最早愉快犯の様な状況になっているものの、偶にはビッグジュエル以外も狙ってみれば目眩しになる。
が、用途が無さすぎて返却するしかない以上、愉快犯にしか見えない。
「どっちが返すかじゃんけんで決めよう」
「いや、何でじゃんけんなんだよ...」
寒空の下、空中散歩の中でじゃんけんをするのは私達位のものだろう。
.
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時