File.5-8 ページ21
額の中に絵が無ければ、消滅したかの様に錯覚する。
そんな人間の特性を利用して絵画の上から貼り付けた白紙を剥がし、貼られたキャンバスから画布だけを外しているキッドの隣すら通り過ぎて天井を見上げる。
「最近貴女方が日本を拠点に変えた所為で、英国を始めとした欧州諸国では窃盗や強盗が多発しています」
「それ私達関係ありませんけど...。態々文句を言いに日本まで?」
ドーム状に誂えられた豪華な天井に昨日ぶら下げておいたポスターケースを見付け、ダーツ銃を取り出す。二階部分を吹き抜けに、回廊を付けて見下ろす形で鑑賞出来るように作られた此処は天井まで中々の高さを持つが、恐らく問題は無いだろう。
背後で「違いますよ」と返してきた白馬が鳴らす衣擦れは、腕を組んだのか将亦立ち方を変えたのか。
「貴女方キャロル・ノーツが日本に移ったのであれば、彼女も来ているのでしょう?...僕は彼女に用があるだけです」
用って何だよ逮捕したいだけだろ、なんて思いながら二度引いた引金は天井近くに下げられたポスターケースの紐を切り、黒い筒が真っ直ぐ落ちてくる。「ご存知だとは思いますが」と添えてくる高校生を軽く流しながらケースをキッドに渡せば丸められた二枚の絵画が収納される。
イギリスから日本まで追い掛けてくるとは、感動のあまり『彼女』が泣いてしまうかも知れない。
「怪盗キッドさん、貴方は彼女...ルブランと協力関係なのですか?それともキャロルと?」
「...はあ?」
まあ当然の反応だ。
あま彼には後で説明するとして、キッドの協力者がどちらなのか気にするとは、返答によっては怪盗キッドすら追い掛けてくる心算かも知れない。また事と次第によっては興味すら示さない可能性がある。とは言え、探偵と掲げている彼が怪盗という犯罪者を見過ごすとも思えないが。
男の顔に適当な男声の儘「以前からの疑問ですが」と横槍を挟んでいれば、一通り見回ったらしい警部達が展示室の扉を叩き始める。施錠した上に結束帯を巻いた扉が簡単に開くとも思っていないが、彼等が突然突っ込んで来ても良いように警官の制服を剥ぎ取りながら背後の彼へと振り向く。
「彼女、ならLe blancじゃなくてLa blancheでは無いんですか?」
何処からどう見ても『不思議の国のアリス』を模した水色のワンピースに白いフリルエプロンがふわりと舞い、青い薔薇のドレスハットが乗せられたプラチナブロンドが柔らかく踊った。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時