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File.4-3 ページ3

バレンケンシュタインで悩む快斗を放り出して入った教室の中は、感じた違和感を濃縮した様な雰囲気に包まれて異質さを醸し出していた。



「みんな押さないで、今あげるから...」



先日転校してきた小泉紅子という女子高生。赤みを帯びた長髪に整った顔立ち、女性らしさを感じる声は何処か色気を纏って高校生より遥かに大人びた印象を感じさせる。



そんな彼女が教室の机に座って、群がる男子高校生にチョコレートの小箱を配る様子は、言葉を選ばず表すなら餌付け、が近い。一人の女性に集まってチョコレートを強請る男性という、世も末な光景にインパクトを受けがちだが、バレンタインデーに気合いを入れてチョコレートを大量に持参する辺り彼女も女王気質然とした見た目に反して可愛らしいのかも知れない。



周囲に目もくれず「紅子さまぁ!」と土下座すらしそうな男子生徒を横目に、自分の席に着く。彼女の机、というより今は椅子と化した勉強机が私の席より前方にある所為で、平伏す同級生達を眺める様な状態になっているが気にせずスマートフォンに目を移す。



拝借した今夜の警備状況を端末で確認していれば「いっぱい貰っちゃった」と鼻歌を踊らせそうな勢いの快斗が教室へと入ってくる。バレンケンシュタインに捕まっているにしては遅いと思ったが、両手いっぱいのチョコレート箱を見るに色々な女子生徒からチョコレートを頂いてきたのだろう。



「なー、夏月は持ってねえの?」



「あげたい人の両手が塞がってるからヤダ」



空腹の猫の様に集まる男子生徒をまるで無視して、一直線に此方へ向かってきた快斗は何故か私の机に大量のチョコレートを山積みにしながら「はあ?あげたいって誰にだよ」なんて明後日過ぎる文句を言ってくる。まあバレンタインを知らない人間が、チョコレートの意味を知る筈も無い。



それにしても、黒羽快斗は女の子からチョコレートをこれだけ貰う程人気者らしい。喜ばしい事この上無いのだが、



「あーかこちゃん!オレにもくれよ!」



状況を察して空気を読む能力は皆無らしい。



快斗が小泉紅子へと差し出した手は、女王様に叩かれて。



「私のチョコが欲しければ、他のチョコを捨てるのね」



叩いた彼女の手は、真っ直ぐに私の机を占拠する洋菓子を指差した。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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