File.5-7 ページ20
立った儘待たされる事数分。
規則的な歩みを見せる秒針が天を向くと同時に、展示室の天井から白煙が噴き出し室内を満たしていく。一斉に騒めき出す警官に紛れて展示室へ滑り込んでいく、警官に扮したキッドを見送りつつ異常事態に対して展示室へ踏み込もうとする中森警部を「駄目です警部!防犯システムが!」と引き止める。
入ったところで防犯等機能してはいないのだが、それに気付かれるのは拙い。それに、この大人数で今立ち入れば300kgなど一瞬で越えてしまう。
そんな一悶着の末、次第に晴れた白煙の中。
「なにぃっ!?」
展示室に数多く飾られた絵画の内、奇抜な芸術作品二枚が額の中から忽然と姿を消していた。
豪華そうな額の内側は白く抜けており、独特で個性的な絵画の面影は欠片も無い。白紙同然となった其処には『お約束通り頂戴致しました』という文字と共に怪盗キッドを模した挿絵と、『Time can be funny in dreams.』の文字に添えられたウサギを抱えて座り込む少女の絵。時価数億は下らない絵画が其処に存在していない事は一目瞭然。
「今すぐシステムを切る様に伝えて来い!」
一番近くにいた警官に指示を出した中森警部の声に「はい!」と返事をしつつ廊下を走る。隣に居て指示を出した警察官が泥棒本人だとは気付いていないに違いない。
走る廊下を曲がった先、直後で立ち止まり壁際へ寄る。今迄いた展示室前を伺えば「まだ近くにいる筈だ!捜せ!」と残された警察官に指示を飛ばしている中森警部が廊下の反対方向へ走り去っていくところだった。その内数人が此方側へ向かってくるらしく、非常階段へと滑り込んで遣り過ごす。次第に遠ざかっていく足音を確認しつつ再び廊下へと戻って、制服姿の儘展示室へと向かった先。
「今時どこのマジックショーでもやってませんよ、そんな化石の様な手は」
円形でドーム状の展示室の中央。キャンバスから絵を外している制服警官の背後に立ち、彼を見下ろす高校生の姿が目に入る。
「昔から何処の国でも居ませんよ、見た目から入る探偵は」
展示室の扉を後ろ手に閉めながら室内へ入る。ドアハンドルに残りの結束帯を巻き付けながら室内のコスプレ高校生へ満面の笑みを浮かべれば「貴女も物好きですね」と相変わらずな柔らかい笑みを返される。
「貴女が誰かと組むようなタイプだとは思いませんでしたよ」
「私を決め付けないで貰えます?」
隣を堂々と通り過ぎても、彼は動かない。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時