File.5-6 ページ19
『ああ、あれがね...つうか、またすげぇ格好してんな』
イヤホンから聞こえてくる彼の呆れた様な声に肯定を返しながら制御端末を操作して防犯システムのプログラムを書き換えていく。
本来は閉館後に作動する其を、今夜は予告に合わせて18時30分から動かしているらしい。その所為で数分前には展示室内は人払いを済ませており、警察官達は展示室周囲の廊下や美術館内、美術館周囲を警戒しているに留まっている。そんなシステムを切るだけでなく、重量センサーを300kg以上に設定し直して、異常検知時もアラームと通報から防犯シャッターの閉鎖へと切り替える。
後は、キッドが取り付けた筈の煙幕が時間通りに作動すれば問題は無い。
「勘と執拗さは中々だから少し面倒、なくらい」
『ま、張り合いが出る位が丁度良いんじゃねえの？』
張り合い、とは同じことを考えるものだなと思いつつ、打ち込みを終えた画面を一通り確認して制御盤のEnterを弾く。彼の犯罪者としての適応能力は目を見張るものがあるが、追われる事をスリルとして捉えられるとは流石の素質だ。
「甘く見て転んだら自己責任ですからね」
『Yes,my lady...大丈夫ですよ、私を信じて下さい』
唐突に遣って来た紳士に「はいはい」と返しつつ、監視カメラの録画機能を切っていく。映像は此処に流れてくるが、室内で観る人がいないのなら支障は無い。未だ眠り惚けいる警察官の手足を結束帯で、口を失礼ながらガムテープで覆って、名前も声も分からぬ儘適当にひとり顔を借りておく。
制服だけでなく顔も変装用に整えて廊下へ出る。
あと5分程、私がする事はもう特別残っていないが展示室近くには向かってみる。廊下に並ぶ警官達に紛れて只管に時間を潰すしかないのが苦行だが、次第に目覚めて藻掻きだすだろう監視室の警察官の篭った声を聞き続けるのも趣味では無いのだから仕方無い。
展示室に程近い廊下の端。
中森警部や白馬探を視界に入れる其処で直立の儘暇を潰す。
待っている数分は何故こんなに長く感じるのだろう、なんて十年以上考えても答えは出ない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 58人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
