File.5-4 ページ17
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翌日の午前中。
冬ならではの季節限定アイススケート場に赴いた訳だが、勿論遊びに来た訳では無い。このスケートリンクからは丁度美術館が臨める事もあって、休日の人々で賑わう中に紛れて下見に来たのだと言うのに。
「ちょ、待て...Aヘルプ」
「はいはい、手離しちゃ駄目ですよー」
後ろに組んだ両腕に掴まってくる快斗はへっぴり腰で、自分で滑ってみる事も無いので只管に荷物が重い。運動神経抜群で初手でハンググライダーを扱い熟したり天井に張り付ける癖に、何故スケートが苦手なのか不思議でしかない。休日の午前中という所為で人が多いが、周回も手を引き合ったりしがみついていたりと自分達に夢中で、此方を気にする視線は見当たらない。
人の間を縫って辿り着いた壁際で、快斗が手を柵壁へと移すのを確認して同じ其処に頬杖を付く。
「調べた感じだと、展示室には赤外線センサー、床には重量センサーと...額を壁から外すにはシステムロックの解除が必要、ってところ」
現在開催中の展覧会は人気が高く、連日の集客率は中々のものらしい。有名な画家の作品展ということもあってか、それとも此美術館の常設システムが有能なのか、防犯システムに関してだけ言えば面倒そうなものが揃っている。とは言え、在り来りなシステムの詰め合わせの様なものだから対して気にする事でも無さそうだ。
「全部切れるんだろ？」
隣で双眼鏡を覗いて咋に美術館を見遣りながら訊ねてくる快斗は、何を当然そうに言っているんだか。怪しさしかない彼を横目に頬杖を付いた儘「大変だからやりたくない」と零して溜息を吐き出す。決して嫌いな訳では無いが、電子機器を操作するのは目も肩も腕も疲れる。そんな苦労する位なら赤外線を掻い潜り、ワイヤーで吊って額近くの壁を爆破した方が何倍も楽なのに。
「んな事言うなって、何か礼すっからさ」
「んー...じゃあ、夜ご飯奮発してくれるなら考える」
へらりと笑って説得を試みる彼に視線を投げるでもなく応えてみる。別に報酬も見返りも求めている訳では無いから構わないのだけど、言われる儘に仕事を押し付けられるのも釈然としない。なんて、見返りに見せ掛けて今夜の約束を取り付けたかっただけなのかも知れない。
変わらない笑顔で「りょーかい」なんて笑ってる彼が居る時間が当たり前になってきた所為で、そんな小賢しい事を考え始めるのだから手に負えない。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
