File.5-2 ページ15
「熱烈なストーカーの...華々しい戦績、かも?」
「はあ?」
尤もな反応だ。私としても何故こんなものを読まされているんだと不思議なのだから、聞かされたところで疑問しかないに違いない。律儀にも「見て良いか?」と訊ねてくる快斗へ了承しながら携帯端末を差し出す。
「彼の困ったところは、ノーツじゃなくて私を追い掛けてくるとこ」
兄が大量に送り付けてきた資料は全て、とある高校生探偵が此処一年で解決してきた事件について。イギリスを中心として活躍する彼は勿論、怪盗だなんて化石に近い存在に興味を持ち、イギリスに留まらず欧州圏内どこにでも付き纏って来た訳だが、兄が資料と共に送って来た内容によれば最近日本に来たらしい。
いや、来たというより帰国したと言うべきか。
「ノーツじゃない、ってどういう事だよ」
「そのままの意味。キャロル・ノーツなんて言う集団じゃなくて、その後ろにいる私を捕まえたい探偵さん」
名を白馬探。イギリス人の母親と、警視庁警視総監の父親を持つ、優秀な頭脳を法の下の正義に振るう高校生。別段彼を脅威だと認識した事は無い上に、それなりに張り合いが出て楽しくなかった訳では無いが、だからと言って居なくて詰まらないだなんて思った瞬間は特に無い。
「ノーツを動かしてる誰かが居る、って思ってるらしくて...。色々あって私が個人的に動いてた時のそれが黒幕だろう、って推理みたい」
キャロル・ノーツは銃火器を使わない。あくまで怪盗である彼等では如何しようも無い局面も存在する。そんな時には両親の役を脱ぎ捨てて、花染Aとして手を汚さなければならない。不思議の国を統べている心算も、操っている心算も無いけれど、私とノーツを結び付けた彼は何か確信を得たのだろう。
粗方冷めたガトーショコラを型から外して粉砂糖を振りながら「そう思ってるのは一定数居るんだけど」と添えて、残った粉砂糖を鍋に放り込む。ティータイム其方退けで端末に夢中な快斗を放置して、紅茶葉を潤かしつつ鍋に牛乳と水を入れて弱火に掛ける。
一年以上成りを潜めている『彼女』を追い掛けているなんて、奇特というか変な人というか。
「ノーツが日本にいるから追い掛けて来たんじゃない?」
「ならオレも会うかも知んねぇな」
沸騰直前に火を止めた鍋へ茶葉を入れて蓋をする。閉じた端末を返して来た快斗が用意したティーカップを湯で温めるのを眺めながら吐いた溜息は、所謂憂鬱の予感。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時