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File.5 Isidore Beautrelet ページ14

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深夜に鳴り続けた端末。



山の様に送られて来た資料を眺めてみても、特に思う事も考える事も無いが、よく分からない方向に頭と労力を使ってくれた兄に気を使って一応目を通しているに過ぎない。届きたてから数時間寝かせて朝から眺めてみるけど、何故こんなものを読まされているのかは分からない上に、よくもこんなに集めたなと兄の暇さ加減に呆れる。



「ほら、出来たぜ」



快斗が入り浸る様になってからと言うもの、すっかり日常生活の場と化している地下。其処のアイランドキッチンなんてお湯を沸かす位のものだったのに、いつの間にやら調理場として存分に活用されている。そんな地下家で次の仕事の打ち合わせ、なんて事は無く、ガトーショコラが焼き上がるのをキッチンで端末を触りながら待っている私と、ホワイトチョコを纏わせた苺を冷蔵庫から取り出し終わった快斗、という休日を菓子作りに費やす高校生を晒している。



何故そんなことになったのかはもう覚えていないが、材料を持って押し掛けてきた快斗に流される儘洋菓子を作らされているという現状。



相変わらずスマートフォンを眺めながら「ひとつちょいだい」と強請ってみれば、先端がホワイトチョコに浸された苺が差し出される。開けた口に放り込まれた果物は程良く酸っぱく、既に固まっているチョコレートの甘さとの相性の良さを際立たせている。



「クリームチーズ入れた?」



そんな冬らしい甘みの中に、ひっそりと顔を覗かせる特徴的な酸味と乳製品の風味。それに顔を上げれば「お、よく分かったな」と楽しそうに笑う快斗が苺を一粒頬張っているところだった。



「こっちが霞むから美味しいの作らないでよ」



「んな事ねえって、絶対美味いだろ」



これだから料理上手な男子は困る。



吐いた溜息を遮る様に鳴るオーブンに、屈んで扉を開ける。ふわりと向かって来る熱気に負けず漂ってくる其処に佇む焼菓子に竹串を刺して具合を確認し、取り出した菓子を型ごと置いておく。粗熱が取れるまでどれ位だか。



「ところでよー、さっきから何見てんだ?」



さて暫く暇になったな、と後片付けも済んだキッチンで欠伸を漏らしている中、画面を着けた儘放り出していた携帯端末へ視線を投げた快斗が苺を摘み食いしながら首を傾げている。



「んー...これ何だろ」



別に隠すことでも無いが、何処から話すのが良いのやら。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時

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