File.4-12 ページ12
𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ
「で、あの変な人だれ？」
すっかり雪が積もった帰り道。
怪盗キッドと謎の前衛的女の遣り取りを街路樹に隠れて眺める事数分。魔法と奇術は何方が優位か、なんて会話にしか聞こえなかったが、詰まり何だったのやら。
全身黒でしかない服の上から、快斗が貸してくれた裏起毛のグレーパーカーのファスナーを上げながら、隣を歩く彼を見上げる。寒いだろうと言ったのにトレーナー着てるから問題無い、と上着を貸してくれたが本当に大丈夫だろうか。
「だれ、って小泉紅子だろ？同じクラスの」
「いや、それは分かってる」
雪でコンクリートが埋まった帰路の中、数分前の異常事態を振り返る。何故彼が小泉紅子に迫られていたのか、結局彼女の目的は何だったのか。彼に聞いてみても、アイツは魔女でオレにチョコレート食わせたかったらしい、の返事しか来ない。意味不明なのは彼なのか、それとも彼女の方か分かったものでは無い。
それにしてもチョコレートを食べさせたかった、とは。
もしかして、
「朝チョコレート断ったから怒らせたんじゃない？」
ただの嫉妬というべきか、それとも彼女の自尊心を傷付けたのか。
「はあ？何でそうなるんだよ」
小泉紅子が本当に魔女だとしたら。あの朝の異様な光景も魔法の影響だと考えれば、理解は出来ずともある程度頷ける。そんな中自分に振り向かないどころか、チョコレートという慈悲を拒否した男がいたのだ。怒っても仕方無い。
だと言うのに、彼は全く気付いていないと来た。
いや、本当に正真正銘知らないのだろう。
「無知な男子高校生にひとつ教えてあげるけど」
ふた周り程大きいパーカーの袖を捲る、なんて寒過ぎる真似は出来ないので手先を仕舞い込んだ儘フードを被る。すっかり冷えた耳が痛い上に鼻も痛い。
「2月14日はバレンタインデーって言って、家族とか恋人、好きな人に贈り物をする日なの。日本では女の子が男の子にチョコレートを渡して...まあ告白したり、日頃の感謝を伝えたり」
長過ぎる袖を合わせる様に腕を互いの袖口に差し入れて腕を組む。吐き出した息は白く冷たい。
「年に一回の行事なんだから、年頃の女の子が大事に考えてるのも分からなくはない...かな」
残念ながら私には分からないけど。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 58人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
