File.4-11 ページ11
洋館、という程広大な訳では無くて、屋敷という重々しさを持った訳でも無い豪邸。其処の玄関前のアプローチと前庭の其処で、屈み込んだ怪盗キッドと。人影。
多分女性で、前衛的なファッションセンスの持ち主。
最早服装に関する知識が豊富過ぎないと説明出来ないような、素晴らしい格好をしているが、クレオパトラと新体操選手とビキニの水着を部分的に持って来たような不思議な女性は、この雪空に寒くないのだろうか。
「どうしたのキッド!」
この距離からでも響いて来た声。
女性の其だと思われる声は、感情的だが今朝も聞いた音と同じ。どうしたの、は此方が聞きたいが、見て判断する限り此処は彼女の家で、彼に何かをしているらしい。地面に刻まれた円と不可思議な紋様は、所謂魔法陣と言うものなのだろうか。その中心に屈んだキッドは、世の中に魔法陣の効力があるか如何かは置いておいて、彼女の術中だと判断すべきかも知れない。
女の子を怒らせた報い、にしては些か過剰。
魔法なんて存在を否定する気は無いが、見た事が無い所為で全肯定するのも憚られる。だから対抗策等何も無いが、次第に地面を白くしていく雪に賭けてみても良い。
降り積もっていく雪を乱してしまわない様に、緩やかに滑空しながら予備に用意している白い羽根を散らしていく。鳥か天使かと言う翼も、元を正せばカーボンの骨組みに合成繊維で出来た布を張ったものに羽根を敷き詰めているだけ。飛翔する中で羽根が抜けていくのは仕方無い。
そんな見窄らしい事にならない様に用意している羽根だが、今日は違う用途で役に立った。
雪の様に緩やかに、柔らかく。
ふわりと地面に吸い込まれていく純白の羽根は雪の様に。幾枚かが金の模様を刻んだ其は、キッドの頭上へと舞い落ちて毒々しい魔法陣を雪と共に隠していく。
「なに!?...羽根なんて、」
突然視界に入ってきた其に、顔を上げた彼女と視線が重なる。ひらりと中空を舞う羽根の中、翼を踊らせる人間は魔女にはどう見えたのだろう。
仕上げの追い討ちだとばかりに、漂う中空で煙幕と紙吹雪と共に姿を眩ます。先程まで広げていた純白の翼を散らして地上に踊らせながら。
「お嬢さん、貴女の魔法は...もう通じない」
屋敷近くの木陰に屈んで、手にしたチョコレートを砕きながらマントを翻し羽根と雪を踊らせるキッドを眺める。
「いや、さむ...」
持参していた私服が薄過ぎるのが苦行でしかない。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月27日 11時