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学校に着いて直ぐ。
いつも通り、の筈が少しだけ違う雰囲気に気付かない程、気配に鈍感では無い。隣で靴から上履きに履き替えている快斗に「今日って何かあるんだっけ？」と訊ねてみるも、首を傾げながら「さあ？」と返ってくるだけ。
そんな中、数秒遅れて下駄箱に到着したらしい、多分同じクラスの女子高生の一人が「おはよう二人とも」と朝の典型的な挨拶をしてくれる。
「おっはよー、麻巳子ちゃん」
簡単に「おはよう」というだけの私とは違って、きちんと名前を呼ぶ快斗は変わらぬ明るい笑顔。そんな彼に同じ様な笑顔を返した彼女は「はい、これあげる」と鞄から取り出した小箱を彼へ渡して、感想を聞く間も無く教室へと向かってしまう。
「なにそれ？」
「さあ...チョコレート？」
貰った箱を振ったり後ろの商品ラベルを見たりしながら応えた快斗は、何でチョコレートだと言う顔をしている。そんな彼に握られた小箱を眺めながら、嗚呼そんな習慣あったな、なんて。
一般的に、友人や恋人、家族などの親しい大切な人に贈り物をして想いを伝える日とされているのが今日。孔雀を聖鳥とする結婚と出産の女神ユーノーの祝日、とされており、聖ウァレンティヌス由来の記念日は日本では専ら『女性が男性にチョコレートを贈る日』という不思議な伝わり方をしている。
「そう言えば今日バレンタインだね」
不思議そうな顔でチョコレートを手に歩き出す快斗の隣で、同じ様に教室を目指す。特に他意も悪意も無い会話だったのに、
「バッ...バレンケンシュタイン...？」
朝からとんでもない化け物が生まれるなんて予想出来る訳が無い。
ヴァレンタインとヴィクター･フランケンシュタインという、司祭と小説の主人公が融合した気味の悪い単語に笑うべきか困るべきかも分からない。しかし、この奇妙な言葉を生み出した彼は至極真面目らしく、何を考えているのかは分からないが何かを悩みながら「バレン、ケン...」と呟いている。
どうやら巫山戯ている訳では無いらしい。
「女の子が男の子にチョコレートをプレゼントする日、ってこと」
一緒に廊下で悩む理由も無いので、日本での一般的になってしまった習慣を簡単に説明して彼を置いていく。甘いもの好きな癖に、十年程の学校生活でバレンタインデーを知らずに生きてきたとは不思議だ。
千影さん位なら、そういう行事も好きそうなものなのに。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月27日 11時
