File.1-4 ページ8
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登校途中に怪盗キッド、の名を報道で見掛けたのは数日後。
通勤や通学で賑わう街頭を飾る液晶ビジョンや電光掲示板、家電量販店のテレビでは深夜から飽きもせず『怪盗キッド再び現る！』と文字が踊り、白のシルクハットとタキシード、ふわりと揺れるマントの怪盗紳士が世間を騒がせ続けている。何故かフルフェイスの笑顔仮面を付けているらしい彼は、8年振りの活躍を華々しく飾ったらしい。
「おはよう夏月ちゃん！ねえ、ニュース観た？」
今夜も予告状を出したらしい寺井さん、というより怪盗キッドの様子でも見に行ってみようかと考えていた時。下駄箱で上履きに替えていた背後から声を掛けてきたのは、多分きっと同級生の恐らくクラスメイトの女の子。ああ否、クラスは違うかも知れないけれど、悪意も毒気も無い様な同級生は態々覚えない所為で名前は分からない。
「おはよー、観た観た！怪盗キッドでしょ？」
「そう！格好良くない！？」
満面の笑みを称えて、腰まである黒髪を揺らしながら教室へと向かう。隣に並んだ彼女は如何やら怪盗キッドに夢中らしく、神出鬼没が良いとか王子様みたいだとかを熱く語り始めるものだから、一先ず傾聴の意を示して相槌は返しておく。本当は61歳のハスラーでプールバーの経営者で、複雑極まりない事情があるのだと知っている身としては、惚れ込む要素は微塵も無いのだけど。
と、話題の彼について話していれば「おっはよー！」と背後から投げられる元気に振り切ったような声。
「...お、はよ...？」
今日は振り返ってばかりだと考えつつ視線を後ろに遣るより早く、廊下を歩いて来た声の主は此方を通り越して、眼前に迫っていた教室の扉を開けてくる。「どーぞ」と語尾が踊り出しそうなニュアンスをもってドアマンを演じてみせるのは、絶対にクラスメイトである黒羽快斗。
「おはよう快斗くん、今日も元気だねー」
こんな光景は見慣れた程にムードメーカーで人気者の彼を気にした様子も無く室内へと入って行く隣の彼女は、矢張りクラスメイトで合っていたらしい。しかし、そんな彼女に着いていく気にもなれない位には、目の前で名も知らぬ彼女へと笑顔で手を振る彼に頚を傾げるばかり。
「入んねーの？」
「...黒羽くんに絡まれたの初めて」
誰かさんの癖が移った其で、右手を顎に当てて考え込む事数秒。唐突に視界に咲いた、赤より紅い一輪の薔薇が思考を遮った。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月11日 23時
