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「ですので、この寺井に万が一の事があれば、快斗ぼっちゃまの事を切にお願い致したく」
こんな未成年の小娘に頭を下げずとも良いのに、相変わらず優しく紳士であり続ける寺井さんは至って真剣で、表面上で断って来ている訳では無いと分かってしまうから。だから彼の覚悟を破り捨てて迄私が名乗り出るのも失礼な話だ。
「...分かった。その代わり、寺井さんに万が一が起こる前には私が割り込むから、それだけは許してね」
黒羽くんにとっては、盗一さんの付き人、かも知れないけれど。それでも彼の近くにいる人が傷付けば彼は屹度悲しむから。然う言う事も含めての『お願い』を千影さんにされたのだろうと思っているから、私にも譲れない部分がある。
少し困ったような、諦めたような苦笑と共に「申し訳ありません」と零す寺井さんは、一体どれ程の覚悟を胸に私に話してくれたのだろう。盗一さんの為、千影さんの為、黒羽くんの為。大切な人の為に囮を買って出る勇気と、自分が狙われてしまう恐怖と。警察に捕まるかも知れない、という犯罪を犯す不安。それらを全て抱えて、見詰め直して、それらに納得した上で、自分を助けて欲しい。では無く、残される者を託すという選択の鋒を私に向けてくれた事実。
それが誤りだった、と思わせないように私も受け取らなければ。
誰かと関わるのは、難しい。
親しい人が出来れば弱くなる。とは良く言ったものだと、数年振りに感じた思いは色褪せず今も同じ顔で此方を眺めているらしい。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時