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突飛な話かと言われれば、全く然うではない訳じゃないけれど。
結論から言うと、寺井さんが怪盗キッドに成り済まして盗一さんを殺害した連中を誘い出そう、という事らしい。
彼が私に態々そんな話をしてきたのは何も不可思議な事では無い。如何言う因果か、祖母の時代から怪盗と呼ばれる大泥棒を生業としてきた私は、母も当然怪盗であり、何故か父も怪盗業という血統書が付きそうな悪党一家。その縁で黒羽一家とは幼い頃からの付き合いであって、怪盗淑女と怪盗キッドは馴染み深い同業者という関係性に落ち着いている。
父も母も、盗一さん同様に殺されている身としては、寺井さんの考えも決意も分からないでも無い。私自身、自分を囮にして両親に殺意を向けた輩の影を掴もうとしているのだから。
だからこそ、態々寺井さんが危険を犯す迄も無いのに。
「私がキッド、しても良いんだけど」
両親が始めた怪盗団、というべきか5人の大泥棒の集団。今となっては私だけで五役を熟す羽目になっているのだから、一役増えたところで大差は無い。どうせやる事は変わらず泥棒でしかないのだが、とは言え彼が快諾する訳も無く「滅相も無い事で御座います!」と至極真面目な返答が直ぐ様飛んで来る。
「Aお嬢様には、快斗ぼっちゃまをお願いしておりますので、これ以上御負担を掛ける訳には...」
「お願い、って言っても一年クラスメイトしてるだけだけどね」
冬のイギリスで『快斗の面倒見てあげてくれない?お願いね!』と唐突に千影さんから掛かってきた電話は忘れない。
夜中の、自然史博物館のヒンツ・ホール屋上でくしゃみに襲われていた最中に鳴り響いた電話には、吃驚したあまり拝借したオストロ・ストーンを落とすところだった。博物館内やら周辺を駆け回る警察の声や足音を聞きながら『ほら、快斗もAちゃんも高校生になるでしょう?それに来年辺り開く筈なのよ』と普段通りの雰囲気で話す千影さんに、曖昧な返事をしながら月影に翳したビビットブルートパーズは曇り無き宝石だった。
開く筈、の話が何を指すかは片手間に聞いても理解出来たが、高校生になるでしょう?は分からない。分からないが、電話越しに『あの子にはAちゃんの助けが必要になるから』なんて一方的に頼まれて切られた電話があったからこそ、今此処でガトーショコラを食べている。
今のところ、一年生、二年生と同じクラスだが名前を覚えられているかも怪しいものだ。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時