File.3-17 ページ48
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慣れた足取りで降りた地下。ベッドまで行く前にソファに沈む。
左手に持った王冠をテーブルに上げて、眺める事暫し。盗んで来たは良いが、果たして此を如何するべきか。怪盗キッドが盗んで来たものなので私が如何こうする心算は無いが、その場で返却してきた方が楽だったかも知れない。
一先ず飲み物でも作るかと立ち上がった時、それを見計らった様に鳴り出す携帯端末。気を遣ってか仕事用に掛けて来たのだろう電話相手に小さく漏れた笑みを其の儘に、スピーカーにして電話を取る。
「デートは順調ですか?優男さん」
端末をアイランドキッチンの端に置いて『.....おめーなぁ』なんて呆れた様な不機嫌そうな声を聞きながら湯を沸かす。生憎今日はココアパウダーを練る元気は無い。
『さっきニュースで警部が怒ってたぜ』
「潔白の証明どころか盗んで来ちゃったからね」
電話で堂々と中森警部の話を出す辺り、青子ちゃんは近くには居ないのだろう。マグカップに入れたカフェオレの粉末を湯で溶かしていれば『何か食いたいもんあっか?』と訊ねてくる彼の後ろで、コンビニエンスストアの入店を報せる音が響く。業務的に挨拶を投げてくる店員の声は、自宅近くの愛想の良いコンビニ店員の其。
「えー...メロンパン?」
菓子パンなら何でも良かったが、取り敢えず思い浮かんだ無難な商品を告げれば『おっけー』なんて軽い返答が戻ってくる。こうして当たり前の様に電話が来て、当然の様に買い出しの遣り取りをして、態々訊ねずとも家に来る。そんな事が普通になろうとしているなんて、実に贅沢な話でしかない。
「ねえ、快斗」
『んー?』
何て、言おうと思ったのだろう。
会計も済んだのか、コンビニを退店する音を微かに聞きながらカフェオレを一口啜る。喉を流れていく温かい其と一緒に、言いたかった事も押し込まれてしまったのかも知れない。『A?』なんて不思議そうな声を上げる彼に、ひっそりと苦笑しながらマグカップを置く。
「ココアで良い?」
訊ねながら、先程諦めた工程の為に鍋を取り出して「冷める前に来てね」と添える。『おう、すぐ行く』なんて当然の様な返事を残して、短い挨拶を置いて通話の切れた端末から視線を外す。
普段より少し丁寧に作ったココアは、牛乳多めに。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時