File.3-16 ページ47
「では警部、お勤めご苦労様です」
怪盗キッドの服を着て王冠を載せた黒羽快斗、という倒錯的な状況と共に、高校生の笑顔を浮かべながら敬礼して見せれば、何時の間にやら王冠と入れ替えられ警察帽を載せられている中森警部が顔を真っ赤にしながら「キッド!」と叫ぶ警部。
そんな彼を勿論無視して、展示室上方に取り付けられている窓へとワイヤー銃を撃ち込み、壁へ着弾して張り付いたワイヤーを勢い良く巻き取って数m上の窓ガラスを割って外へ飛び出す。
思わず使ってしまったが、キッドはこんなもの使っていただろうか。
「追え!逃がすな!」
まあ、今後キッドにも使わせれば済む話だ。現品を寺井さんに渡せば、知り合いの発明家とかいう人に類似品を造ってもらえるだろう。ついでに改良品が出来れば欲しいところだが、兄にせがむでも良い。
飛び出した窓からハンググライダーを広げて大都会を滑空しながら、今後の事を僅かに思案して中空の風に身を任せる。頂いてきた王冠を外してシルクハットへ被り直し、眼下に群がり始めたパトカーを躱す様に左へと経路を逸らしていく。
手軽でコンパクトだがハンググライダーは移動し難い。これを上手く扱いながら飛ぶ怪盗キッドは器用だな、と改めて感じざるを得ない。見た目の優雅さに反して小型のモーターを積んだ二翼の重量は中々のものだが、羽搏いて飛べる辺り自由度は高く扱い自体は恐らくハンググライダーよりは簡単。
矢張り怪盗キッドは凄い、なんて盗一さんの頃から思い続けた感想を噛み締めながら飛ぶ夜の空中散歩は、普段より星空が綺麗に見えた。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時