File.3-15 ページ46
青い硝子片が散在する中、未だ球体を保つ硝子玉が幾つか。
矢張り便利な分、扱いが難しいらしい。薄い硝子膜の中身は主に亜酸化窒素。他にイソフルランとデスフルラン、窒息予防に酸素を詰めた超一時的揮発性麻酔薬の試験運用に丁度良い状況ではあったが、弾ける硝子の危険性と室内の広さと人数によっては数の判断が難しい点において改良が必要らしい。
あと、単純に床が惨状過ぎる。
ジャリジャリと硝子を割りながら、今更弾ける硝子玉を遠目に見遣って『天使の王冠』が眠る展示ケースに手を伸ばす。
施錠もされていない硝子ケースを持ち上げ、照明に煌めく王冠を両手で迎えに行くと同時。王冠が寝かされている赤いクッションの展示台から突然伸びてきた腕が、見えているかの様に此方の両手首を掴んでくる。そう言えば途中から中森警部居なかったな、なんて考えていれば展示ケースから上半身を飛び出させた警部が、掴んだ手首を遠慮無く握り締めながら「わっはっはぁ!」と高笑いを上げ始める。
「掛かったな怪盗キッド!」
立ち上がった拍子に王冠を被った警部の似合わなさに、驚く振りも忘れて無言を貫いてしまう。
とは言え、これは何とも好都合。
「今こそ貴様の正体を暴いてやる!」
掴んだ腕を引っ張り寄せながら大々的に宣言する警部は、勿論躊躇う事無く警官に扮した犯罪者の警察帽を剥ぎ取っていく。男性警官の変装ごと剥かれた、僅かに慌てたようなポーカーフェイスを取り落とした先。
「やだぁ!お父さんの変態!」
「...あ、青子ー!?」
咋に恥ずかしがって両手で顔を隠しながら、中森警部の娘の声色を真似て怒気を孕ませてみる。警官の制服に中森青子の顔という、将来本当に本人で見られるかも知れない姿も含めて驚愕の声を上げる警部に、彼女では先ず有り得ないだろう不敵な笑みを添えて頭を下げる。
「中森警部、貴方が私を追う様に...私も警部の身辺は調査済み。貴方の目を欺く等容易いという事をお忘れなく」
顔を上げて、放り捨てられた警察帽を拾い上げる。下半身を未だ展示ケースに収めた儘「じゃあ、この前の快斗くんも...」と小さく零している警部を余所に、警察帽をくるりと一周させれば帽子がポンッと軽快な音を立てて煙を上げながら『天使の王冠』へと姿を変えた。
「嗚呼、警部の御息女と幼馴染の彼ですか。彼には申し訳無いですが...あの手の顔は都合が良い」
王冠を自分の頭に載せて、警官の変装を解く。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時