File.3-11 ページ42
授業前の教室が煩いのはいつも通りで、学校では快斗とあまり関わらない様にしているのも変わらないし、持っている本は殆ど読破しているなんて昔から知ってた。
「快斗が女の子と遊園地行くのが、嫌だったのかも」
鍋で火にかけたココアパウダーに少しずつ牛乳を加えて練っていく。普段は電子レンジで温めた牛乳にココアを混ぜて終わらせるけれど、今日は予定外に一日時間が出来たから。
「初めてこんな事思ったけど...モヤモヤしてて、何か気持ち悪い」
均等に溶ける様に篦で混ぜながら、砂糖へ手を伸ばす。この感覚が何なのか知らない程無知では無い。感じた事が無いだけで、そんな時どんな感情を抱くのかなんて知識は持ってる心算だから。ただ、想像して理解している心算だった其より不愉快だっただけ。
砂糖のストッカーに触れた手に、すらりとした右手が重ねられる。靱やかで細く、長い指先が手の甲を撫でて絡め取られていくのを何処か自分の事では無い感覚で見詰めていれば、背後に体温が触れて腰に腕が回ってくる。
「やべぇ、すげえ嬉しい...」
「.....焦げる」
耳元で小さく呟かれた声は言葉通り嬉しそうで何よりだが、そんな事より鍋のココアが心配でならない。此方の事等お構い無しに頬を擦り寄せてくる彼へ「快斗ってば」と回された腕を叩く事数回。漸く渋々離れた重みに息を吐くより早く、触っていた砂糖が誘拐されていく。
「断りてぇとこなんだけどさ...次の日曜、予告日なんだよ」
連れ去った砂糖を鍋に加えながら、何処か真剣な様子で口を開く快斗は少し眉を下げつつも思案気に「警部に顔見られたかも知れねえんだよな」なんて、とんでも無い話を持ってくる。いつの間にか選手交代となっていたココア作りに、マグカップを二つ用意して鍋の中を眺めては右手を顎に添え呻吟をひとつ。
「つまり、警部の差し金か...彼女が快斗の白を証明しようとしてるか、だけど。どちらにしろ断らない方が良いから...」
置いたマグカップにココアを移しながら「だよなぁ...」と零れる声は、今のところ打開策を見出した訳では無さそうだが、折角今日一日時間が出来たのだから何か案を練るしかない。
取り敢えず、
「なら、私がキッドで盗めば良い?」
一番手っ取り早い対策を提示して、出来立てのココアを一口。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時