File.3-10 ページ41
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結局、図書室は通り過ぎて帰って来た訳だけど。
相変わらずコンビニに寄って幾つかお菓子とパンを買ったけど、店員さんの「お前学校は?」なんていう視線が入店から退店まで付き纏っていて目が煩かった。
そして帰宅して数十分経った今、一番煩いのは携帯端末。
先程から囂しく鳴り響く着信音は、祖母と兄と寺井さんと快斗しか知らない電話番号の其。数分おきに数分鳴り続ける電話の執拗さは十中八九快斗だが、帰宅早々に入浴を選んだお陰で脱衣所で電話が騒ぎ続けている。休憩時間でも無いところからして何処かに抜け出して電話を掛けて来ているのだろうが、一度出なかったのに諦めず何度も掛ける辺り、そろそろ何事かあったかと心配すべきだろうか。
ぐるぐるとそんな事を考えながら、部屋着のワンピースにパーカーを羽織って風呂を出る。次鳴ったら出るかとスマートフォン片手にリビングへ入るのと、中々の勢いで玄関が開くのは、多分玄関扉が開け放たれる方が早かった。
「.....どうしたの?」
解錠と同時に開いた扉の先、肩で息をしながら立っている快斗は勿論制服姿。
「オメーが電話、出ねぇから...何かあったかと.....」
後ろ手に鍵を掛けて、その場に屈み込む様子を見るに如何やら走って来たらしい。まだ十時前という平日の午前中に街中を走る男子高校生は嘸かし目を引いただろう。
「ごめん、お風呂入ってた」
自然乾燥に任せて湿る髪をヘアクリップで纏めながら玄関先に屈んで、息を吐く彼の隣に放り出された荷物を取る。漸くと整ったらしい息を飲み込みながら僅かな苦笑と共に「みてーだな...」と零した彼は、重たい腰を持ち上げて室内へ上がり込んでくる。
今更学校に戻る心算は無いのだろう。
「その、悪い...オレ青子と.....」
快斗のカバンをソファに置いて、冷蔵庫の何かでも出すかとキッチンへ向かう背中に掛けられた謝罪。突然の其に一瞬、冷蔵庫へ掛けた手が止まる。どうやら何かを不愉快に感じているらしい、なんて他人事の様に認識したのは、瞬間的に鼓動が跳ねた気がしたから。
「他の子にも好かれてる、って良い事なのに不思議だね」
伸ばしていた手で冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。
鍋にココアパウダーを入れながら「何で帰って来たのか考えてたんだけど」と独り言の様に口を開いてみても、謝罪を途中で切られた彼が口を挟む事は無い。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時