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File.3-9 ページ40

𓂃 𓈒𓏸*⋆ஐ




生まれて十七年、覚えている中でワクワクしたのは黒羽盗一氏の奇術を観た時と、初めて自分の手品で拍手を貰った時。



あの時の快斗は可愛かったのに。



工藤新一の興味を引く手段を考えて一夜を明かし、毎朝恒例の快斗の朝食を頂いてから登校して、朝から突然詰め寄って来た青子ちゃんに悪態を吐く快斗は全く可愛くない。



「わたしとデートして!」



「だっ、誰がてめぇみたいなブスとよー!」



直ぐ真後ろの席で唐突に始まった遣り取りに巻き込まれないよう、文庫本を広げて文字を追う。まず一つ、女の子から誘ってくれたデートを正面から断る。次に、女の子を手前呼ばわり、は未だ良いとしてブスは本当に宜しくない。仮に照れ隠しだとしても紳士としては赤点。



怪盗キッドの時間は粗完璧と言って差し支え無いのに、黒羽快斗の時は男子高校生より幾分幼い言動が垣間見える。



明らかな差別化の為に態とそうしているのか、怪盗キッドが演技全振りなだけなのかは分からないが、黒羽快斗の端々に盗一さん譲りの紳士が覗く瞬間もあるのだから不可解だ。勿論同一人物なのだから、同じ部分があるのは当然で良いのだけど。



「そんなこと...そんな事、わかってるわよ.....でも、お願い...」



差が激し過ぎて、混乱する瞬間があるのは困る。



「...、.....良いぜ、別に」



「ほんと!?なら今度の日曜日、トロピカルランドね!」



まあ、女の子に口が悪いのは別として、無邪気で元気で明るくて笑顔が眩しい彼が好きなのだから構わないのだけど。だからこそ、その分怪盗キッドがどうも、なんと言うか。



「あ、青子って...快斗くんのこと、好きだったの...?」



「誰があんなやつ!」



「でも、さっき...デートって」



変な感じがする、が一番近いかも知れない。



ページを捲った先の最初の一文を読んで、何の事か分からずページを戻す。後ろの行から遡って、やっぱり分からなくて見開きの初めから読み返すけど、文字が視界に入るだけで良く分からなくて。パラパラとページを巻いてみて、読んだことある本だと気付く。



なら読まなくて良いじゃん、なんて本を閉じて。



校内に響いた予鈴を聞きながら立ち上がれば「夏月ちゃん...?」なんて恐る恐る、の色を滲ませた声が斜め後ろから聞こえてきて笑顔を振り撒けば眉を下げた青子ちゃんと目が合った。



「ちょっと図書室行ってくる」



取り敢えず、授業を受ける気にはならないから。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時

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