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File.2-12 ページ31

「押さえろ!こいつがキッドだ!」



美術館正面玄関から聞こえてきた中森警部の声に、一斉にアン王女へ飛び掛って行く制服警官は日本警察。



何の躊躇いも無く中森警部とアン王女へ身を投じていく警官達は直ぐに山積みとなり、最早誰が何処で何をしているのか等分からない上に、野次馬の端からでは目視は不可能。もう彼も大丈夫そうだし一足先に帰っても良いかな、位には眺めているのにも飽きてきた時。



「流石は中森警部、姫が猫好きとは知らなかった」



山盛り警官の外、近くに立っていた街灯の上へ突然現れた怪盗キッド。彼は相変わらずの所作でシルクハットの鍔を引き、純白のマントを夜風に翻しながら眼下の警官達を不敵に見下ろしている。そんな犯罪者へ、群衆が一気に宛ら大熱狂と盛り上がり歓声の渦が生まれる様子は、大人気アーティストのライブ会場を軽く凌駕しているであろう騒音。夜中にとんだ迷惑だな、なんて冷めた視線を投げているのは私くらいのものだが、そんな不審人物を気に留める者もいない。



「それでは中森警部、また何れ...」



奪取してきただろうダイヤモンドを何時の間にやらキッドに握らされている中森警部へ恭しく一礼してみせた彼は、慣れた身の熟しで煙幕と共に街灯から姿を消してしまう。その幕引きにも観客からは大喝采が起きるのだから、怪盗キッドの人気が凄まじいのか将亦住民、延いては日本国民が異常なのか分かったものでは無い。



まあ、そもそも何の資格も有していない高校生が探偵だ何だと警察を駒の様に扱い、それを国民が許容してメディアで取り上げるような国だ。神出鬼没で正体不明の怪盗、なんてものに熱狂しない訳が無い。



「よっ、おまたせ」



未だに歓声と拍手喝采に湧く野次馬の中から、ひらひらと手を振り現れた高校生こそが君達の熱狂する怪盗なんだぞ、と教えてやりたいところだが、彼の正体を知ったからと言って落胆する国民達でも無さそうなのが恐ろしい。寧ろ怪盗キッド熱が加速しそうな位には顔だけは良いのだから。



「おかえり、お人好しの泥棒さん」



態々中森警部に花を持たせてきた気障な怪盗へ労いの言葉を掛けつつ、熱冷めぬ群衆へ背を向ける。すっかり私服姿に戻った高校生と並んで歩く夜道は、次第に喧騒から遠ざかっていく。



「ねえ、コンビニ寄らない?新作アイス今日から発売だって」



「おっ!良いな、寺井ちゃんのとこで食おうぜ」



高校生は夜更かしだ。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時

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