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File._ とある教師の日常 ページ4

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この街、いや、この国は犯罪都市だ。



生まれてから今日迄、変わらずに思い続けた環境に対する感想は矢張り変わらない。街に出れば爆弾に遭遇し、人と擦れ違えば数分後には擦れ違った人が殺される。電車に乗れば暴走して、バスに乗ればハイジャックされる。自家用車にすれば安心かと思えば、バイクより早いスケートボードを操る小学生位の少年を轢かないような運転技術が求められる。



日常茶飯事と化した其等を、今更異常事態だと騒ぐ心算は無い。道端のポイ捨てされた空き缶より出会す事件や事故は、悪い意味でいつも通りなのだから。



だからこそ、人が殺されても隣の家が爆発しても、階段から人間が縦回転に転がり落ちても、心が踊る事も無かった。



満月の夜空を舞う天使を見上げる迄は。



職場からの帰宅途中、突然目の前を掠めた白い羽根に誘われて上空へと目を向けた俺は「天使...?」と呟いていた。いや、呟いたかは定かでは無い。言ったか如何かも分からない程目を奪われ、自分の事は記憶に無いのだから仕方無い。



女子の服装、というかドレス?には詳しくないが、水色のワンピースの裾から見えるフリルまみれのペチコートがふわふわしていて、襟や胸元に袖、腰とスカートのサイドを飾るトリコロールのリボンがアクセントとなっていて、綺麗というより可愛いという印象の、天使が飛んでいた。



目の前の大通りを爆音と共に走るパトカーの赤を視界の端に見ながら、視線はひらひらと楽し気に飛ぶ白い翼の彼女に縫い留められた儘。



人間が飛べるのかとか、その羽は如何なってるんだとか。そんな疑問すら思わせない、見る者を魅了する何かを持った彼女が世界的に有名な怪盗だと知ったのは翌日のニュースだった。



朝一の報道を見ながら、テーブルに置いていた羽根を眺める。



彼女、アリスのものだと思われる15cm程の純白のそれは朝日を浴びて金色のアンティーク風の柄を煌めかせている。音符を基調としている様な美しくも品のあるデザインは、正にキャロル(賛美歌)だと朝から柄にも無く考え事をしてみた。



よし、今日の授業で昨夜の話をしてみよう。先生昨日アリスを見たんだぞ!なんて言ったら生徒たちは羨ましがるだろうか。質問攻めに合うかも知れない。



普段は憂鬱な出勤時間が、楽しく感じたのは気の所為では無い。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時

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