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File.2-11 ページ30

幾度となく夜空に響く銃声に、押し寄せていた野次馬達も流石に不安を隠し切れずに響めきが大きくなっていく中。



『あらあら、あの子の初恋は見破られてるのね』



斜め前で騒然とする群衆を眺めながら、街路樹に凭れた儘耳に当てた電話からは相変わらず穏やかで楽しそうな千影さんの声。ぼんやりとした息子への愚痴に返ってきた明確な返答に、千影さんが何を言わんとしているのかが、私に伝わっているという事実。それに気付いて最早隠す気も無くしたらしいが、初恋云々の話は彼の為にも此処だけの話に留めておこう。



割れていた窓ガラスから何故か突然飛び出して落ちて来たサブリナ公国の刑事を無感情に目で追って、外壁の途中に設置されている装飾旗に引っ掛かった彼を見届けつつ「違うんですよ」と溜息をひとつ。



「私の所為で一悶着あって...契約的な友達以上恋人未満、というか」



話せば長い事ながら、説明しようにも難解なこの状況を端的に表す言葉として選んだが、余計に理解不能な関係性のようになってしまった。しかし、千影さんも明るく豪快な性格をしているだけあって追及する心算も無いのか『それは大変そうねぇ』と軽く流してくれる。楽観的なのか放任主義なのかは分からないが、息子が変な女に拐かされている、なんて心配にはならないのだろうか。



自分で変な女、というのも何だが。



『Aちゃん、快斗に泣かされたらビンタよ!思いっ切り叩いて手型付けるの!分かった?』



私が心配していたこの女性は、若しかしたら私より変わった人なのかも知れない。



はい分かりました、なんて言える訳も無く苦笑いを返していれば再び騒がしくなり始める野次馬。何事かと美術館出入口へ目を向ければ、慌てた様子の王女様が飛び出して来ているらしい。此処からでは何を話しているのか定かでは無いが、何故か中森警部に詰め寄られている辺り、あの王女は快斗の変装なのだろう。



『あらやだ、そろそろ行かなきゃ』



群衆の声と電話越しの千影さん、視界には王女に掴み掛かる中森警部という情報の多さの中、そういえばミュージカルを観に行くんだったかと「長々とすみません」と謝罪を添えつつ、互いに再びの電話を約束して通話を切る。電話の度に思うが、千影さんのアクティブさは中々だ。



スマートフォンをポケットに仕舞う為に一瞬外した視線を戻した時には、アン王女こと怪盗キッドは其処には居なかった。






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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時

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