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此処が日本だから、なんて常識は国外の警察官には通じない。拳銃を携帯して人間に向けて発砲する事が日常的過ぎて、日本だから容易に発砲してはならないなんて声は届かない。
怪盗キッドが銃を携行していないとか、人を殺さないとか、そんな事は関係ないのだから。
「どーしたんだよ、難しい顔して」
画面を見詰めて何分経ったか、突然掛けられた声に顔を上げれば大皿にケーキを2切れずつとホットココアを2杯持った彼が席に戻って来ているところだった。目を丸くしながら此方へ疑問符を向けた彼に「んー...」なんて呻吟を返しつつ思案を一つ二つ。この刑事を行動不能に追い遣るのは容易いが、彼の為かと聞かれれば難しい。
そもそも泥棒する事に、彼の為も何も無いのだけど。
「防弾チョッキ着てた方が良いよ」
画面に映る刑事の顔を拡大して彼の方へ画面を向けてみる。皿をテーブルへと手放した彼はそれを覗き込む様にしながら席へと着き、咋に嫌そうに顔を顰めている。流れるように此方側へと置かれたココアに「ありがとう」と返しながら一口啜れば、柔らかい甘みが広がった。
「ったく、海外の警官はガラ悪ぃな」
「ほんと。日本人に感謝」
差し出されたフォークを受け取りながらパソコンを閉じる。じっくり検討するのは帰ってから彼がすれば良い。私は外でぼんやり眺めておくか、将亦家で寝ておくか。万一の救援に備えて近場で待機していても良いけれど。
目の前の大皿に並んだケーキは2つずつ。ショートケーキにチョコレートケーキとチーズケーキ、フルーツタルトとプリンにシュークリーム。これを全部食べ切る心算なのか疑問だが、これだけのケーキに合わせるなら普通はコーヒーが無難だ。それなのに当然の様に渡されたのはココア。私が甘いもの好きだなんて言った憶えは無い。彼の様な性格の人間が、相手の希望を聞かず自分の好みを押し付けてくるとも思えない。
つまり、彼は知っているのだろう。
いや、気付いたのかも知れない。寺井さんに作ってもらうノンアルコールも、出されるお菓子も全て甘いのに何も言わず食べているから。
君と味覚が似てるって事に。
私が彼の甘党を知ったのは今だと言うのに、彼は気付いた上で確認の為に問い掛けてくる事も無く気を利かせてくれる。
気遣いの人、というのは周りに人間が集まるものだ。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月11日 23時
