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「つうか、ネーミングセンスすげぇよな」
相変わらずパソコン画面を見ながら呟く彼は、クラッカーでサワークリームを掬って頬張っていく。
「小説だか映画だか、そんなタイトルの作品があった気がするけど」
彼が言うネーミングというのは『パリの太陽はいっぱい』なんて名前が付けられた宝石の話だろうと口を開く。あくまで邦題が、というだけなので小説と映画では原作のタイトルは勿論違う。直訳では無く態々凝ったタイトルを考案しなければならないのか等は知らないが、詰まりあの宝石も正式名称はもっと違う可能性すらある。
「変な名前にならなくて良かったね、お互いに」
何処かの誰かが怪盗なんて言う犯罪者を面白がって名前を付けてくれたらしいが、聞き苦しい名前にならなくて良かったとしか言い様がない。若しとんでもないネーミングに引っ掛かっていたら、跡なんか継がずに今頃は真っ当な生活を送っていたかも知れないけれど。まあ、怪盗キッドの場合は優作さんが名付け親らしいので、奇天烈な名前になる心配は先ず無いだろうが。
すっかり空になった皿にフォークとナイフ、スプーンを並べて重ねていく。男子高校生が盛って来た時点で少し心配だったが、分量の配慮も勿論弁えている彼が間違える筈も無く、デザートと飲み物位の余裕を持って完食した。先に空いていた彼の分の皿も纏めていれば、すかさずスタッフらしき男性が皿を下げてくれるのだから、流石はホテルでしかない。
やっぱり日本は良いな、なんて此処一年思い続けた感想が今日も浮かぶ。
「あ、悪ぃ...ケーキで良い？」
「え...あ、うん、ありがとう」
そんな素晴らしいホテルスタッフの背を眺めていれば、パソコン以外の荷物を無くしたテーブルに気付いた彼が直ぐ様立ち上がる。ケーキで良いか、というより一度も立ち上がっていない所為で何があるのか知らないのだけど。
甘味を取りに行った彼の背中を見送って、一人佇むパソコンを此方に引き寄せる。相変わらず美術館の映像を映す画面を切り替えて、複数のウィンドウを並べれば警察官達の多さが際立って目立つ。その中で一人、スーツ姿のオールバック男が指揮官らしく制服警官へ偉そうに話しかけている。残念ながら音声は拾わないが、動く口元から察するに「これだけ固めれば奴も手を出せまい」との事らしい。
確か、殺人刑事と言われる発砲マニアだったか。
まだ懲りてないとは、学習能力の欠如は恐ろしい。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月11日 23時
