File.2-3 ページ22
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安息なる秒針が天を跨ぐ時
サブリナ公国所有の
揺蕩えども沈まぬ日輪を
頂きに参上する
怪盗キッド
その週の土曜日。詰まり、行く行かない論争の翌日。近場の駅で待ち合わせた後、二人でサブリナ宝物展にやって来たは良いのだが、一般展示の最中だと言うのに警備員や警察官の人数が一般客を上回る程の警備体制。
「ねえ、サブリナ公国の宝物って警官?」
「国民の展示です、って言われても納得だな」
各展示ケースとコーナーを目隠しするかの様に並んだ警察官の合間から、サブリナ公国が見せたかったであろう絵画を眺める。圧倒的に宝物達より警察官の人数の方が多いのは確実に気の所為では無い。それに加えて、昨夜怪盗キッドからの予告状が届いたとあって一般客も入場一時間待ちの大賑わいを見せているらしい。そんな宝物展の建物内では、いかにも文化部然とした真面目そうな女子大生と黒髪眼鏡の優しそうな男子大学生が、警察官達を邪魔そうに嫌味を囁き合っている。
見たところ、立ち並ぶ警察官の大半が西洋顔であるところからして、この警備体制は中森警部ではなくサブリナ公国の警察官の考案なのだろう。
「あの、怪盗キッドが狙ってるっていう宝石を見に来たんですけど」
然も真面目そうな女性から、怪盗キッドの名を出すのは不自然だろうか。なんて考えないでも無かったが「『パリの太陽はいっぱい』って何処に展示されてるんですか?」と近くに立っていた警察官へと訊ねながら、相変わらずの風変わりな名前の事を考えてしまえば一瞬浮かんだ不安も杞憂と流れていく。
「『パリの太陽はいっぱい』は、アン王女がお持ちで展示の予定はありません」
突然訊ねたにも関わらず、きちんと対応してくれた警察官は有り難いのだが、その返答は不可思議極まりない。サブリナ公国の宝物展に国の目玉を出さないとは、サーカスでピエロが居ないようなもの。チケット代の返金を求められても文句は言えない。
「え...見られないんですか?」
「僕達それを楽しみに来たんですけど」
偶然近くにいた警察官には申し訳無いが、二人で「ねー?」と顔を見合わせて不満を訴える。すると周囲にいた客達も「キッドのダイヤ見れないんだって」「何だ、楽しみにしてたのに」と囁き合いが広がっていき、次第に客が騒がしさを増した。
「み、皆さん落ち着いて!」
そんな中ポケットから何かを抜かれた等、沈静化を図る警官は気付く筈も無い。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時