File.2-2 ページ21
「だぁー!わあったよ、分かりました!」
勝ち誇った私と、苦虫を噛み潰したような彼。睨み合う数秒の後に「奢れば良いんだろ!」と折れた彼は、深々と溜息を吐き出しながら視線を再び新聞へと向けている。ホテルビュッフェは中々値が張るが昼間なら、まあ、大丈夫だろう。それに勿論彼に支払いを任せる心算も無いから、一人分だけ払ってくれれば良い。
「仲良いね、二人とも」
予鈴が間も無く鳴ろうかと言う時、彼の隣の席から声を掛けてくれたのは、勿論青子ちゃん。その言い方や口振り、表情と視線が。
「付き纏われて困ってるの。助けてくれない?」
どうして嬉しそうなのか、教えて欲しい。
伊達眼鏡のレンズ越しにも分かる可愛らしい彼女は、にこにこと満面の笑みを浮かべながら今にも鼻歌でも歌い始めそうだが、何がそんなに楽しいのかと問い質す心算は無い。年頃の女の子というのは全世界共通で何を考えているのか分からないのだから。
「おい夏月、それどーいう事だよ!」
「事実でしょ」
今青子ちゃんと話してるんだから黙ってて、と付け加えながら文句で割り込んできた彼が手にしていた新聞を取り上げる。相変わらず眩しい笑顔で此方を見詰めてくる青子ちゃんの「でも快斗、良かったね」なんて、でもも良かったも分からない出だしの話を聞きながら、回収した新聞を小さく折り畳んでいく。辞書位の大きさにまで畳んだ新聞のページ端を袋状に広げて、其処へ息を吹き込んで引っ繰り返せば、
「やっぱり夏月ちゃんが赤い薔薇の女の子なんでしょ?」
机の上に、大量の飴玉とチョコレートが散らばった。
「.....なに、それ?」
特に珍し気も無く此方を見ていた半眼の彼が突然吃驚した表情で青子ちゃんへ視線を遣るより、突然始まった無言の手品で新聞から湧いたお菓子に群がるクラスメイトより、何かを楽しそうにしている青子ちゃんの言葉が気になって。「すげぇ!食っていい!?」とか「菓子バイキングじゃん!」とか騒ぐ同級生を差し置いて、一番大きく手のひらサイズの箱で出てきたチョコレートを差し出しながら彼女へ詰め寄る。
「ねえ、その話詳しく」
「あ、うん...」
「ちょーっと待った!授業始まるぜ!な!?」
面白そうな話の予感がしたのに、頷きながらチョコレートを受け取った彼女の横合いから割り込んできた誰かさんが遮ってくるものだから。
今日も平凡とは程遠いけど、いつも通りの一日が始まっていく。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時