検索窓
今日:1,421 hit、昨日:2,506 hit、合計:86,744 hit

File.2 警官がいっぱい ページ20

•˳୭❃̥˚•˳୭❃̥˚•˳୭❃̥˚•˳୭❃̥˚•




穏やかな日常、というのは何の変化も無い一日を指す言葉では無いのだと知ったのは此処一年の話。



銃撃されず追い掛け回されず、殴り掛かってくる輩も切り殺そうとする奴も居ないのに、穏やかでないとは困ったものでしかない。身体的な安全が確保されている日本の、しかも一高校生に訪れる日常などたかが知れている筈なのに。というのも数日前に遡るが、8年前まで、詰まり互いが9歳だった頃まで時折一緒に遊んでは奇術の腕を見せ合っていた少年が、今や立派な男子高校生なのだけれど、その彼が煩い。



「なあ夏月ー、絶対ぇ面白いって!」



というより、煩いどころか執拗い。



「えー...私、美術館とか興味無い」



今日も今日とて朝から絡んでくるのは、後ろの席の黒羽快斗。私より数分遅く青子ちゃんと登校してきたかと思えば、早速今日の朝刊を広げて一面を飾る記事を見せてきた挙句、一緒に行こうと喧しい。彼が示す記事というのは『アン王女来日記念・サブリナ宝物展開催』の見出しを掲げたもの。何でもヨーロッパにあるサブリナ王国から、アン王女が宝石やら絵画やらを持参して日本に遊びにいらっしゃったらしく、サブリナ宝物展という題目を掲げて展覧会を開くのだという。



彼が執拗く誘ってくるのは勿論、その宝物展に行こう。という主旨のものだが、この男が宝物展に私と連れ立って行く理由など普通ではない。如何せ展覧会の目玉であるヨーロッパ最大のダイヤモンド『パリの太陽はいっぱい』とかいう、色々な意味で一度見聞きしたら忘れられないビッグジュエルが目当てなのだろう。



「んな事言うなって!昼飯出すからさ、な?」



数年前にもう盗んで確認済みだから嫌だ、とは言えない。今のところの彼の犯罪理由は、怪盗キッドとして目立って黒羽盗一を殺害した犯人を炙り出す、なのだから。手を出してはいけない彗星の呪いの話は彼が辿り着くまで私から持ち出す心算は無いし、知らぬ方が身の為。



まあ、知らぬ儘で居られるとも思っていないけど。



「.....杯戸シティホテルのビュッフェなら、考えても良い」



後ろの席を向けるように横向きに座った儘、駄々を捏ねてだらしなく頬杖を付く彼へ溜息を漏らす。広げられている新聞に構わず、彼の机に頬杖を付き返して二人で向き合う様に視線を重ねて。



「じゃなきゃ、私はパス」



満面の笑みを添えてやれば、目の前には益々不機嫌そうな顔。






.

File.2-2→←File.1-15



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (23 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
162人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。