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示したスプレッドの、ボトムへ彼が手を伸ばす。
ガラスとステンレスが奏でる音と、ジュースとクラッシュアイスがシェイクされる規則的な音が響く。
「ったく、結局母さんかよ...」
返されたボトムカードに合わせて、スプレッドが波打つ様に一枚残らず反転していく。
「私は楽しいよ、普通の学生生活」
スートを晒したカード達は、どれも同じ顔。
「親の跡継いで泥棒なんてやってたら、みんなと遊ぶ機会も無いし」
日本で学校に通いながら、なんて生活では無かったから同年代の皆と賑やかな時間を過ごす事も無かった。だからこそ小学校の頃以来、楽しい時間を過ごす事が出来ているのだから、千影さんにも黒羽くんにも感謝している位だ。
「じゃあ、Aの親御さんが死んだのも...」
54枚のHeartのAは黒羽くんの手で山に戻され、彼の手の中へ。
「殺されたの。盗一さんの後にね」
収められた山札へ彼が指を鳴らし、此方へ差し出す。受け取ったトランプは違う顔を覗かせていて、元通りの4スート13枚セットとジョーカー2枚が赤黒彩やかに並んでいる。
「どうぞ、ぼっちゃま方」
返却されたトランプをカウンターに置くのと同時に、寺井さんから二つのグラスが差し出された。可愛らしい黄色と濃いピンク色のカクテルがゴブレットに入って小さく揺れる。それと合わせて出された皿にはチョコチップクッキーが並べられていて、真夜中に見る光景としては中々に背徳的だ。
軽く感謝の声を掛けながら、黄色い其を一口傾ける。
「A、オレと一緒に宝探ししようぜ」
口に含んだ甘さを飲み込むより早く、隣の彼が変わらぬ笑顔で面白そうな事を言ってくる。
その宝が、盗一さんが怪盗キッドを始めた切っ掛けなのか、盗一さんを殺害した人間の事なのか将亦父親が殺害されるに至った理由なのか。それとも、その先にある彗星の呪いか。
「良いよ、黒羽くんが死なないで居てくれるなら」
一枚手に取ったクッキーを、満点の笑顔を飾る口元へ押し付ける。無理矢理焼き菓子を差し出されて小さく目を瞬かせた黒羽くんは、次いで柔い笑みへと変えて一口分齧って誘拐していく。
「よろしくな、A」
予想外にも指先に残された半分を見詰めて、臨機応変さとポーカーフェイスが頭を過った。半分に欠けた焼き菓子を自分の口へ収め、悪戯に笑みを浮かべてみせて。
「こちらこそ」
食べたクッキーは甘かった。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時