File.1-12 ページ16
「.....分かった」
私が差し出した其を受け取った黒羽くんは、静かに頷いて立ち上がる。
私は物心が付いた頃から両親は犯罪者だった。そう言うものなのだと思っていたし、自分もそうなるのだと思っても特別不快感も嫌悪感も無かった。かと言って、嬉しかった訳でも楽しいと感じたことも無いけど。だけど、彼は私とは違う。尊敬していた父親が泥棒だと知ったのは、既に父親と死別した後。そんな彼は何を思っているのだろう。
数歩歩み大きな月輪に視線を投げた彼の背を眺めながら腰を上げる。背格好は盗一さんより一回り程小柄で男子高校生らしさがあるが、小学生の頃からすると随分成長した背中は頼もしく感じるのだから不思議だ。
誰もが夜の静寂を守る中、微かに響いてきた足音。
次第に大きくなるそれは扉の前で一度立ち止まり、次の瞬間には鉄製の屋上扉が勢い良く開いた。
「見つけたぞ怪盗キッド！...と、アリス！？」
怪盗キッド、と呼ばれたのは寺井さんでは無く黒羽くん。彼の影に隠れて警官達には見えていないだろう寺井さんへ、彼が着けていたマントを拝借して被せる。ふわりと掛けた其を剥ぎ取りながら、怪盗キッドの衣装から裏地の青が彩やかなタキシードに煌びやかな金の刺繍のロングコートという、アリスの仕事仲間の格好へと早替えを施す。
「オレが囮になるからその隙に！寺井ちゃんの事頼んだ！」
「でも、ぼっちゃま...」
一斉に押し寄せる警官に臆する事無く囮を買って出るとは、中々肝が据わっているらしい。とは言え、それだと私の負担が大きい気がするが気の所為では無いだろう。
「オレはもうぼっちゃまじゃない」
屋上を埋め尽くさんとする警察官と、集まってくる警察の螺旋翼機。
「怪盗キッドだ！」
此方へ高らかに宣言した彼は、後悔も悲嘆も見受けられない、気障な怪盗が似合う表情を持ってシルクハットの鍔を摘みながら不敵な笑みを浮かべる。
くるりと此方へ背を向けて駆け出した彼を見届けて、寺井さんの手を取って反対方向へ走りながら「腕と肩壊した事は？」と手短に問う。有るなら逃走手段の変更が必要だが、この問い掛けの意味と理由を説明している時間は無い。
「あ、ありません...」
黒羽くんが屋上から飛び降りたのを確認しつつ、ハンググライダーで滑空する彼を横目に同様に飛び降りて鳥より大きい翼を広げる。
腕一本で掴まってくれている寺井さんの為にも、私の腕の為にも、早く帰りたい。
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作者名：雪兎。 | 作成日時：2024年1月11日 23時
