File.1-8 ページ12
「ふっ...はははは!」
突然高笑いを始めたかと思えば、「あ、」と小さく零して然も偶然のトラブルかの様に天井から滑り落ちた黒羽くん。
そんな彼は、真下に座っていたクラスメイトへ手早く自身の変装を施して教卓横へ。青子ちゃんが可哀想な被害者へ「やっと降りて来たわね快斗!」と怒る声を聞きながらも、視線は目にも止まらぬ素早さで其等を遣って退けた悪戯っ子に。誤る事無く絡み合った視線の先、自慢気で楽しそうな笑顔が全然変わっていなかったものだから、音を出さない様にそっと拍手を贈る。
彼は褒められるのが好きで、
「ち、違う!ボクは快斗じゃない!」
「眼鏡掛けて変装したつもり!?そんな下手な手品じゃあ、怪盗キッドの足元にも及ばないわ!」
酷く負けず嫌いだ。
「悪かったなぁ!下手な手品でよ!」
黒羽くんの変装を施されたクラスメイトと青子ちゃんの遣り取りから数秒、彼女の言葉に声を上げるのは本物の彼。それに合わせて一斉に教卓横の黒羽くんへと視線が集まり、そんな周囲を余所に私からは溜息。
「おもしれぇ、そいつらと勝負してやろうじゃねえか」
どうしたものか。全く面白くない。
一度火が着いたら鎮火しないのが良いところなのか、そうでも無いのかは分からないけれど。兎にも角にも、手品を使う泥棒達と勝負して捕まえる、という確固たる目標が出来たらしい黒羽くんは、青子ちゃんは勿論置いていかれっぱなしのクラスメイト達に構う事無く「黒羽快斗、早退しまーす」と宣言しつつ、教師の手の甲に置き土産を口付けて風のように去って行く。
まあ、黒羽くんに捕まるのなら悪くないけど。
とは言え、勿論逮捕されたい訳でも無い。
彼と違って授業は受ける心算だが、放課後までには何をどうするかでも考えておくしかない。しかしながら今日は特段予告日では無いし、私が今日捕まる可能性は極めて低い。となると寺井さんだが、黒羽くんが怪盗キッドの仮面を剥がせたとして、小さい頃からの知り合いだと分かれば捕まえるだなんて事も生じないに違いない。と考えると、別に何かをしなければいけない事も無いのかも知れない。
一先ず、事の顛末が分かったら千影さんに連絡でもしておこう。
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作者名:雪兎。 | 作成日時:2024年1月11日 23時