花香る願い事 ページ28
篠原side
ふわりと香る甘い匂い。
透き通るような爽やかな風。
___みてみて!おはなのかんむり!
___ふふ、上手に作ったわね
___あぁ、似合ってるぞ。本物のお姫様みたいだ
___えへへ
まるで絵本の中にいるような
そんな錯覚をさせるこの場所が、昔から好きやった。
工場と家との間にあるこの温室は色とりどりの四季の花々が咲き誇る、一ノ瀬家の自慢。
深く息を吸って、吐く。
痛みが体を走るけど、もう一度大きく吸って、吐き出した。
懐かしい香りに思わず顔が緩むのを感じて。
昔の光景が思い出されて。
つぅ、と涙が頬をつたう。
「ははっ、あかん、なぁ」
ぐい、と涙を拭いて振り返れば。
いつも立っとったその位置に、今日もまたサカモトは立っとった。
「ありがとぉ。この場所を守ってくれて」
「…この場所は貴女様の宝物。一ノ瀬家に仕える私に取っても特別な場所ですから」
「ふふ、嬉しいこと言うてくれるなぁ」
薔薇にユリ、向日葵、スズラン…
それぞれの花々は互いに支え合うように咲き誇り、優しくゆらゆら揺れとった。
「サカモト」
静かに名前を呼べば周りを見渡していた彼は私の方を向く。私の真剣な顔に驚いたのか一度目を見開いた後、真面目な顔になった。
「貴方は死んだらあかんよ。罪を償って、生きて。私達の分まで」
「っ!」
「もう直ぐマック達が来る。その前に貴方はこの場から離れるの。精一杯生き抜くこと、それが私たち家族への償い」
「花恋…様…」
「早よ行って!」
泣きながらも頷いて、ドアノブに手をかけるサカモト。
今まででいちばんの笑顔で。
貴方が好きやって言うてくれた笑顔で。
「サカモト!!」
お別れするから。
「今までありがとうございました!」
私の最後のお願い、叶えてや?
花香る願い事
(間違うても死んだりしたら許さへんで)
(そうは思っているけれど)
(きっと貴方は…)
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もも - はじめまして、いつもとても楽しませて頂いていました。続き楽しみにしています。いつまででも気長に待ってます。ゆっくり、無理なさらず、ご自分のペースで頑張ってください!! (2019年12月8日 14時) (レス) id: e553bc82f3 (このIDを非表示/違反報告)
さすけん(プロフ) - 初めまして、いつも続きを楽しみに読ませていただいています。途中のトムの手紙のところで号泣し、最近は更新ごとに泣いてます。次の更新をいつまでも待ち続けるので、無理しない程度に頑張ってください!風雅さん大好きです。これからも応援しつづけます!! (2019年12月3日 23時) (レス) id: 3cfe6e774f (このIDを非表示/違反報告)
風雅(プロフ) - みけねこさん» みけねこ様初めまして。コメント頂きありがとうございます。貴重なお涙を頂いてしまったとのこと、本当にありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ファントムと彼等の想いを大切にしながら執筆して参ります。最後までお付き合い頂けますと幸いです。 (2019年11月18日 2時) (レス) id: 4353acba07 (このIDを非表示/違反報告)
風雅(プロフ) - 彩葉さん» 彩葉様、初めまして。コメント頂きありがとうございます。拙い言葉と文で読みにくい箇所も多々あるかと思いますが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。大倉さんの想いを大切にしながら執筆して参ります。引き続き最後まで何卒よろしくお願い致します。 (2019年11月18日 2時) (レス) id: 4353acba07 (このIDを非表示/違反報告)
みけねこ(プロフ) - 初めまして。最初から読ませて貰いました。夢中で読んでました。涙が止まらないお話もあったりして、また更新されるのを楽しみに待ってます。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: 5ac0d2c424 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風雅 | 作成日時:2015年8月1日 0時