第7話 光 ページ7
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目的地を告げられないまま、だんだん日が暮れてきた。
底冷え。
そんな感じの寒さが、足元から這い上がってくる。
うぅ、さむ。
と、心の中でつぶやいたその時、見えない段差に足を取られた。
すかさず、黒尾くんが私の手を掴む。
「うわっ…と、大丈夫？」
「う、うん、ごめん。ありがとう」
顔を上げると、黒尾くんは『気をつけてよ』って、私の頭の上にポンと手を乗せた。
心臓が少しだけキュッとする。
「黒尾くん、そういうとこだよ」
「ん？何が？」
「ううん、何でもない」
わざとらしくとぼける黒尾くん。
わかってるくせに。
ここで照れてると何か負けみたいだから、バレないようにマフラーに顔を埋めた。
『マフラー解けてる』って、さりげなく巻き直してくれる君に、敵うはずはないのだけれど。
午後５時。
「そろそろかな」
黒尾くんがスマホの画面をちらりと見る。
「そろそろ？」
「うん」
黒尾くんが頷いたのと同時に、並木道がパッと色づいた。
その場にいた人の歓声で、空気が揺れる。
無機質な街並みが、一瞬にして、カラフルに彩られた。
「うわぁ、……綺麗」
「だろ？」
「黒尾くん、すごい」
「あははっ、俺が点けたわけじゃないけどね？でも良かった、Aちゃんが喜んでくれて」
「すごい。私、イルミネーションが点く瞬間、初めて見た！」
何度も『すごい』『綺麗』って連呼すると、黒尾くんは笑って、私の頭をそっと撫でた。
「Aちゃん、意外とはしゃぐよね。雪とか、イルミネーションとかさ」
優しそうな目をした黒尾くんと、視線が重なる。
やっぱり子どもっぽいって思われてた。
頬が熱くなるのを感じながら、目を逸らす。
仕方ないの。
だって、ほら、すごいし、楽しいじゃん。
……って、子どもみたいな感想しか浮かばない。
「黒尾くんも…はしゃいでたし」
「ふっ、たしかにそうだった」
「もういいから、ねぇ、あそこ、空いてるとこ座ろ」
「ハイハイ、わかったから。Aちゃん、落ち着けって」
黒尾くんが楽しそうにケラケラ笑う。
からかわれるはの好きじゃないのに、不思議と嫌な気はしなかった。
相手が彼なら、誰だってそうなる。そうでしょ？
黒尾くんが天然かそうじゃないかはさておき、私も“落ちた”大勢の一人になったりして。
なんてね。
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作者名：pomme | 作成日時：2022年5月20日 7時
