第49話 満ちて ページ49
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外はまだ、雪が降ってるのかなぁ。
頭の片隅で、真っ暗な世界を静かに覆い隠す雪景色を想像した。
そういえば、カーテン、閉め忘れてたな。
「よそ見しないの」
鉄くんがくすりと笑って、私の頭をさらりと撫でた。
思わず、うとうとしちゃうような、やわらかな仕草だった。
飽きるまでずっと、撫でていてほしい。
鉄くんの、大きくて、あたたかくて、優しい手で、ずっと。
うっとりしながら、その手を握った。
鉄くんの下ろした髪の毛が、顔にかかってくすぐったい。
キスをするには、鉄くんの前髪は、少し邪魔かも。
でも、かっこいいから好き。
うざったそうに前髪を跳ね除ける仕草だって、ほんとにすごくかっこいいから大好き。
余裕のない頭の中で、鉄くんのことだけを考えた。
『A』と私を呼ぶ、心地の良いその声や、私の首筋を滑る、その唇のことを。
私の肌を撫でる、じれったいその手つきや、指先の感触を。
鉄くんが、愛おしそうに、私の名前を口にする。
返事の代わりに、キスをした。
鉄くんの熱を持った吐息を耳元で感じると、どうしようもなく、全身が疼いた。
艶っぽい、いつもと違うその声色は、私をこの上なくドキドキさせた。
ほんとうに、死んじゃうんじゃないかと思うくらいに。
私はそんな感じなんだけど、鉄くんはどう思ってるんだろう。
その首元に腕を回して、途切れ途切れに、『好きだよ』と呟く。
『ヒュッ』と、鉄くんが息を呑む音が聞こえた。
鼓膜や、皮膚の奥の奥まで、キミで満ちていくような気がした。
うんざりするほど交わしたキスは、まだ足りなくて、『もっと』とねだると、鉄くんは優しく笑った。
「A、好きだ」
そう言って、私をぎゅうっと抱きしめる鉄くんの髪の毛からは、私と同じ、シャンプーの甘い香りがした。
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作者名：pomme | 作成日時：2022年5月20日 7時
