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第38話 情緒 ページ38







みなさんには、我慢ならない瞬間ってありますか?


ちなみに、俺は今がそれです。



休憩になった途端、むさ苦しい男どもが、Aを取り囲んだ。

ほらだから、こういうのが嫌なんだって。やっくん、わかってんだろ?




「…Aさん、す、好きな食べ物ってなんすか」


山本のキショ質問に始まり、あの海までもがめちゃくちゃ楽しそうにしゃべってる。


なあ、マジでやめねぇ?



無意識に眉間に皺が寄った。


そんな俺を見たやっくんは、『我慢我慢』とヘラヘラ笑う。

テメェ笑ってるけど、お前のせいだからな。



てかマジで、監督に隠しとく必要ってあんの?


俺は無いと思う。

なあ、誰か、無いって言ってくれ。

そして俺を助けてくれ。




「海くんはカツカレーとか好きそう」


「どんなイメージだよ、俺」


「俺は?俺はどうすか!」


「山本くんはね〜、ん〜、めちゃくちゃ分厚いカルビとか」


うわっ、なんかわかる…とか思っちゃったじゃねぇか、おい、A。いい加減にしてくれ。


嬉しそうにニヤニヤする山本を、バレねぇ程度に睨んだ。

カルビごときで何が嬉しいんだよ。



「ちなみに私は、あんバターパンも大好き」


そう言いながら、Aはチラリと俺に視線を向けた。


『鉄くんは知ってるもんね』

そう言いたげな顔で、少し笑った。



ああ、知ってる。もちろんな。


最近家の近くにパン屋ができたんだろ?そこの『あんバターパン』が美味しくてハマってるって。それで今度、俺を連れてってくれるって。そんな話、したもんな。




だから知ってる……。けど…やめてくれ、A。

俺、そういうので全然許しちゃうから、この状況。

我慢ならねぇとか思ってたのに、別にいいか…なんて気分にすら、なってくるし。

マジでバグってる。


Aのせいで俺、おかしくなってる。




彼女の視線一つで、容易く荒ぶる心臓をなだめながら、ドリンクを口に含んだ。


マジで俺……。



「……どうかしてるわ」


「どうしたの?」


いつの間にそこにいたのか、Aが俺の顔を訝しげに覗き込む。


『何でもねぇよ』と、そのおでこに軽くデコピンして、コートに向かった。



本当は何でもなくないし、『いったぁ』と呟く声すら、愛おしく思ってる…なんてのは、俺だけの秘密。

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作者名:pomme | 作成日時:2022年5月20日 7時

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