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第31話 甘い ページ31








ここ、どこ。


よくわからないまま連れてこられた、どこかの階段の影で、鉄くんはようやく声を出した。


「A、こっち見て」


やわらかくて、優しい声で囁かれると、胸がきゅっとして、目が離せなくなった。



うわぁ、なにこれ。


超ドキドキする。




鉄くんの冷たい指先が、私の頬を撫でると、途端に全身が粟だった。


さっきまで嬉しそうに笑ってたのに。

全くの別人みたいな大人っぽさと色気がキミを包み込む。


ねぇ、ほんとに、どういう仕組み?






「A」


“A”って呼ばれるの、なんかまだ慣れなくて、そわそわする。

うわずった声で返事をすると、少し笑われた。


やだなぁ、バレてるのかなぁ。こんなふうに思ってるのも。



「ぷっ、可愛いな」


「可愛くないし」


「俺にとっては可愛いの」


なにその顔。

楽しそうに口角を上げながら、鉄くんは私のおでこにキスを落とした。




「A、好きだよ」


「えっ、うん。私も好き」


なにこれ、甘。

甘すぎて死んじゃうかもしれない。


死因・黒尾鉄朗みたいな具合で。



鉄くんの全身から溢れる、甘ったるくて色っぽい空気。


たまらなくかっこよくて、息するのも忘れた。


胸が痛くて苦しいのに、心地いい。


ああ、もうほんとに、無理かもしれない。

誰か、ヘルプミー。




鉄くんが、額、まぶた、頬の順に、たくさんのキスを落とす。


すでに心臓止まりそうなくらいドキドキしてるのに、これ、唇に触れちゃったらどうなるの。


そんな心配をよそに、鉄くんは楽しげに、私の唇に親指を這わせた。



「キス、していい?」


か、確認なんか取らないでよ。

そんなのしぬにきまってる。


でも、口をついて出たのは『まっ…て』という、とっても情けない声で。



それなのに鉄くんはクスリと悪戯っぽく笑った。


それから、『ダメ。待たない』って囁きながら、そっと唇を重ねた。



心臓が爆破した。


本気で。



優しく触れるキスが、徐々についばむようなそれに変わった。


角度を変える度、熱すぎる吐息が、冷え切った外の空気に逃げていった。



時折顔を離して、鉄くんが『好き』とつぶやく。


どうしていいかわからない私は、ドキドキしたまま涙を溜めた。


なんか、ほんとうに死んじゃいそう。


嬉しすぎて、幸せすぎて。

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作者名:pomme | 作成日時:2022年5月20日 7時

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