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第19話 勝手に ページ19






『可愛い』



少し屈んで余裕そうな笑みを浮かべるキミが、超ムカついたから、その鼻をむぎゅっとつまんでやった。



「Aちゃん、いたい」


「黒尾くんが変なこと言うからでしょ」


「言ってねぇし」




“可愛い”とか、そういうワードは軽々しく言っちゃダメってこと、キミはもっと心に刻むべきです。


あなたみたいに、誰にでも言うのは超めちゃくちゃダメです。たくさん学んで、理解して。

ほんとうに、心から思った時だけ、伝えるものだから。



顔をしかめる黒尾くんへ、そんな念を込めてみた。



「ていうかさ、今日、私の行きたいところ行って良いって言ってたけど、いいの?黒尾くん、せっかくのお休みだし、そっち優先する?」


「ううん、いいのいいの」


「そう?」


「だってほら、“お詫び”だし。俺がわがまま言ったら意味ないだろ?」


「まぁ、そっかぁ」


「そう。だから、Aちゃんは俺のことなんか気にしてないで、楽しんでよ」


「それはダメ。一緒に来たんだから、一緒に楽しまなきゃ。ね?」


そう言うと、黒尾くんはふわりと優しく笑った。


つられて笑うと、黒尾くんは『Aちゃんには敵わないな』って、眉を下げた。



なんか違う。

いつもより、優しくてふわふわしてる雰囲気が、黒尾くんを包み込む。

それが、とってもかっこよくて、まぶしかった。




カーブに差し掛かり、電車がガタンと大きく揺れる。


「うわっ」


その拍子に、黒尾くんが少しふらつきながら、私の方に体を寄せた。


「大丈夫?」


顔を上げると、予想以上に近い距離にドギマギした。



本当に、今にも触れられそうな距離。

というかもう、半分くらい、黒尾くんの胸元に埋まっちゃってるし。




「……わ、悪りぃ」


黒尾くんが申し訳なさそうにしながら、体勢を直す。


ほんの少し遠ざかる距離感に、寂しさを覚えた。


そのまま、ぎゅってしてくれても、私、怒らないよ。…て、何考えてんだか。


熱くなる頬をバレないように、窓の外に目を向けた。

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作者名:pomme | 作成日時:2022年5月20日 7時

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