第63話 たまらなく好き ページ13
◆
『さっきまで寝てたし』と言いながら、思いっきりあくびするA。
Aがこんな表情をするのは俺の前だけ。
思わず、頬が緩んだ。
頭を撫でると、スマホを置いてぐるりと俺の方に向き直ってふにゃりと笑った。
「A」
「ん？」
不思議そうな顔で俺を見るAの額に軽く口付ける。
目を丸くして頬を染めた君がたまらなく愛おしくて、ギュッと抱きしめた。
「どうしたの急に」
腕の中のAがもぞもぞ動く。
「好きだ、A」
恥ずかしいのか、小さな声でうーとか、わーとか唸っているAを腕の中に閉じ込めた。
「夢みたいなんだ。全部、よくできた夢なんじゃないかって気がして…。なぁ、A、夢じゃないよな？」
問いかけると、Aはゆっくりと顔を上げて、ふわっと笑った。
少し潤んだ瞳にベッドサイドのランプが反射して、きらりと光る。
「夢じゃないよ」
Aはそう言って、俺の頬にキスした。
そして照れたのか、『やっぱり…夢だったりして…』と、顔を背けた。
はぁ、何だそれ。
胃がきりきりするような、狂おしいくらいの愛しさが込み上げてくる。
ああ、もう、何だほんと。
おかしなくらい身体が火照る。それもこれも、全部Aのせいだ。
今になって、これまでよりずっとずっと深く強く理解した。
Aだけ。
世界中、どこを探しても、俺の心をこんなにも簡単に動かせるのは、Aだけなんだ。
本人にそのつもりは無いようだが。
こんなことを言ったら“大袈裟だよ”って、笑われるだろうな。
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作者名：pomme | 作成日時：2021年3月22日 10時
