第91話 きみがすき ページ42
．
シンと静まり返った医務室に響く、ひとつの足音。
タオルで巻いた保冷剤を無言でくれた。
「じゃあ、俺は戻るから」
音も立てずに背を向けるから、慌てて、『待って！』と立ち上がってその手を掴んだ。
ふつうによろけた。
頭、ぐらぐらするし。
「あっ、おい、安静にしてろって」
「す、するから、待って。お願い、話聞いて」
「わかったから、座れ」
言われたとおり、ふかふかのベッドに腰掛ける。
そっちも座ってと、目で合図すると、遠慮がちに向かいの椅子に腰を下ろした。
カチ、カチと秒針が正確に時を刻む。
「好き」
何から言おう。あれも伝えたいし、これも話さなきゃ。
あれだけ悩んだのに、口をすべるようにつるりと出てきた言葉は、とてもシンプルな二文字だった。
「好き、なの。……別れようって言われたのに、こんなこと言うの気持ち悪いと思うし、というか私が悪いのに、何言ってんだコイツってなると思うし……」
脳天に食らった一撃で、完全にイカれてる。
支離滅裂で何言ってんのかさっぱりって、思ってるんじゃないかって怖くて、顔を上げられない。
でも、言わなきゃ。
伝えなきゃ、君を失ってしまう前に。
涙が出てきて、うわずった声で、たくさん言葉を紡いだ。
「本当に、ごめんなさい。自分のことしか頭になくて、どれだけ困らせて悩ませてたか気づきもしないで……。もう手遅れかもしれないけど……、私、あなたのことが……と、飛雄くんのことがすきっ」
「……っ、もういい。いいから」
一瞬、瞬きをしてる間に、勢いよく抱きしめられた。
ぎゅうぎゅうと、ありえないほど強い力で。
壊れちゃいそうなのに、心地よくて、胸がぽかぽかした。
「……あの言葉、取り消してもいいか？」
凄く近い距離で見ると、君の瞳ってちょっとだけ青みがかってるんだ。
真っ黒もかっこいいけど、ブルーグレーって何となく神秘的だよね。
「ううん、取り消してもいいかじゃねぇな。……取り消させてくれ」
そう言いながら、頬を伝う涙を、親指ですくう。
温かくて、触れたところからとろけてしまう。
「A、好きだ」
「……私も、飛雄くんのことが好き。大好きだから、側にいて」
「言われなくてもわかってる」
私がクスリと笑うと、飛雄くんはホッとした表情で、私の頭を撫でた。
数日ぶりに交わすキスは、どことなくしょっぱい味がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 267人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
pomme(プロフ) - riさん» ありがとうございます〜！！🫶🏻 (2022年5月21日 16時) (
レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
ri(プロフ) - 最高でした〜〜🥲💗💗💗 (2022年5月21日 10時) (レス) @page50 id: d86ac26d68 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» いつもありがとうございます！！！黒猫さんの熱超ヤバいし、嬉しすぎるし、ありがたいしで狂っちゃう！もうほんと、マジありがとうございます🫶🏻🫶🏻頑張ります〜！ (2022年5月6日 20時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
黒猫。(プロフ) - うわああああ!!…わあ。語彙力吹っ飛びました!!もう！好き！コメ欄が黒猫ばっかになってすみません本当に！愛が溢れてまう…!!とりあえず主様を神と崇めさせていただいてよろしいでしょうか!!かっ…げやまぁ!!完結まで応援しますわ…影山との恋の行方を見届けます！ (2022年5月5日 20時) (レス) @page42 id: abf8c53ec1 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» ありがとうございます！！！嬉しすぎて、もう泣いちゃう！！素敵なありがたすぎるお言葉、何度も読み返してニンマリしてます……🫶🏻いい夢見れそう… (2022年4月11日 23時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：pomme | 作成日時：2022年1月20日 23時
