第56話 非常事態 ページ6
.
部活終わり、片付けもそこそこにAと話そうと思ってた俺の計画は、海によって易々と砕かれた。
よりにもよって、海に。
「海くん、そっち派なんだ。…私?もちろん、カレードリア推し」
「たしかに、それも捨てがたいな」
「ちょっと気取ってコーヒーだけっていうのもアリだよね」
「同感」
漏れ聞こえる会話。
おめーら、さっきから何の話してんだよ。どうでもいいから、手ぇ動かせ。
……と、思う俺の手も止まる。
ジィっと二人の様子を伺ってたとき、夜久の声で一気に現実に引き戻された。
「どうした黒尾」
「いんやぁ、別に」
俺の視線の先を辿ると、夜久は『ははーん。なるほどな』と、妙な顔で大きく頷いた。
「……薄々思ってたけど、やっぱ、Aってお前のコレ?」
「はぁ?ちげーし」
左手の小指を立て、わざとらしくニヤつく夜久の頭をペシンと叩く。
その勘の良さ、今だけは仕舞ってくんねぇか。
「なんだ。違うのか」
夜久はそう言うだけで、引き下がりもしなかった。
ありがとうやっくんその調子だ……と思ったのも束の間、夜久はまた、Aの方に視線を送った。
「てかさ、海があんなに女子と打ち解けてるの、俺、初めて見たかも」
さっきから話し込む二人を見て、夜久はしみじみと言う。
『そうか?』と返してこの場を鎮めようとした矢先、夜久が衝撃の一言を放った。
「……俺にもチャンスあるかな…」
……あ????
ちょっと待て、やっくん。今、何つった?
チャンスって何???マジ??えっ、早まんなって。
脳天を突き抜けるほどの嫌な予感。
「いやさ、前から思ってたんだけど、Aって良いよな。可愛いし、明るいし、愛想いいし」
やっくんの言葉がどんどんあらぬ方向へ向かってる。
「Aって今彼氏いんのか、お前知ってる?」
夜久の頬が、見たことないくらいピンクになってる。
わ〜、なにその顔。ねぇ、やっくん。冗談ヤメテ。
俺は心の中で、白目を剥いた。
836人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時