第５４話 だだ漏れ ページ4
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休憩に入るとすぐに、黒尾くんは私のところへとやって来た。
左手にはドリンク、右肩にはいつか私にもくれた、あの音駒タオル。
「お疲れ。どう？やれそう？」
首筋を流れる汗を拭きながら、黒尾くんは探るような目線を私に向けた。
「わかんない。…けど、頑張る。黒尾くんのお願い、叶えたいし」
『ね？』と、同意を求めて斜め上を見上げた。
「頼もしいな」
「わかんないよ、成果はどうなるか」
すると黒尾くんは、目を細めて悪戯っ子のようにニッと口角を器用に上げた。
「大丈夫。俺が保証する。Aのことは、よーく知ってっから」
「あ、ありがと」
『んじゃ、また後で』と、黒尾くんがひらりと手を振る。
振り返した手をぎゅっと握りながら、胸の疼きが治るのを待った。
練習着の黒尾くんは、制服のときとは違って、どこか少し大人っぽく見える。
いつもの余裕というか、落ち着いた雰囲気が、より色濃くなって、彼特有の空気ももっと濃密になる。
そんな気がした。
これは完全に、全員落ちちゃうやつ。
好きになっちゃうやつだ。
もし、私と黒尾くんが、初めてここで会っていたとしたら。
私たちの関係はどんなふうになっただろう。
あなたの一挙手一投足にドキドキして、夢中になって。
目で追って、ハイタッチと称して触れてみたりして。
それから先はどうなるだろう。
黒尾くんが私のことを想ってくれる確率は？
それを、伝えてくれる確率は？
黒尾くんは優しいし、案外用心深いから、黙って卒業…なんてのもあり得そう。
ストレッチを始めた黒尾くんの背中を、こっそり盗み見る。
前の彼女も、こんなふうに、あなたのことを見つめてたんだよね。きっと。
そう思うと、来なきゃよかったって、ほんの少し、苦い思いが胸の中に広がった。
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作者名：pomme | 作成日時：2024年2月25日 22時
