第68話 ツンツン ページ18
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お昼時。
どのレストランも、案の定、人でごった返していた。
ようやく見つけたテラス席に腰を下ろし、そそくさと被り物を外す、彼の頭を思わず二度見した。
「……えっ?」
「ん?どうかした?」
「どうって、それ…」
その髪の毛。潰れてペシャンコどころか、通常の逆立ちを見せてるそれ。それは一体どういう仕組みなの。
元気なツンツンに手を伸ばすと、鉄くんはくすぐったそうに目を細めた。
被り物に負けない髪の毛。その仕組み、何か素晴らしい未来の技術に使えるんじゃないかな。
適当な感想を述べると、『そんな大層なモンじゃありません』と、鉄くんは静かに琥珀色のアイスティを口にした。
カップの周りについた水滴を指でなぞる。
そんな仕草すら、彼の手にかかれば素敵な絵になり、私の胸はドキンと鳴る。なんて、恐ろしい人。
雲の切れ間から光が差し込む。
歩き疲れて、早くもヘトヘトな私たちは、終始無言でランチを貪った。
もはや、飾る必要もない。
そんな空気感に、私の心臓は容易く軽やかなリズムを刻んだ。
独り占めだ。
鉄くんの今を、私一人で。
ついでにと買っておいたチュロスを半分にちぎると、鉄くんは迷わず、大きい方を私に差し出した。
甘すぎなくらい甘くて、顔を見合わせて笑った。
ストレートティにはバッチリ合うみたいだ。
私のレモネードとは、あんまり合わないけれど。
そんなときだった。
『あれ…!もしかして!』と、見知らぬ声が、背後から降ってきたのは。
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作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時